産業用蓄電システムの生産や販売などを手がける株式会社YAMABISHI(東京都大田区)は2019年5月、神奈川県の海老名市にある生産工場にて太陽光発電の自家消費を始めた。
広さ1400㎡ほどの工場の屋根に、162kWの太陽光発電パネルを設置。さらに426kWhの蓄電池も備えた。
太陽光によって発電した電力を自社で消費した分だけ、電力会社からの購入量が減ることになるため、電気代削減効果を期待できる自家消費。同社の場合も大幅な電気代削減を達成したようだ。
YAMABISHIは今回の自家消費によって、電力会社からの購入量を45%ほど削減。太陽光の自家消費だけでなく、電力の最大値(デマンド)を削減するピークカットによる基本料金削減の成果だ。
蓄電システムは自社製品
実は今回導入した自家消費関連の設備のうち、蓄電システムはYAMABISHIの自社製品だ。
「自社の製品を自ら活用することで、お客様への提案時に説得力が出てきます。また導入後に得られた生の運用データを提供することで、より導入検討が進みやすくなると考えました」。
こう話すのは、YAMABISHIの東京営業所に所属する平瀬哲也氏。
実際に海老名工場では、蓄電システムの検討顧客による見学も受け付けているという。
海老名工場の電気代削減に大きく貢献したという同社の蓄電システム。一方で太陽光の蓄電池というとまだ高価なイメージも一般的にはあるが、同社の蓄電システムはどうなのか?
「確かに自家消費設備だけを設置する場合よりもイニシャルコストは上がります。ただ我々の蓄電システムもつけることで、太陽光だけでは得られない価値を享受できるメリットは大きいと考えます」と平瀬氏は話す。
蓄電システムの設置イメージ(出典:YAMABISHI提供資料より)
新技術で発電量などを予測
効果のカギをにぎるのは、YAMABISHIの新技術。同社製の蓄電システムの新機能として、2019年9月にリリースし特許を取得した「SmartSC」という技術だ。
現在同社の蓄電システムに標準搭載されており、すでにユーザーへの導入も進んでいる。
SmartSCによって、太陽光による発電量と電力使用量を事前に予測しながら、蓄電池の充電率を最適に制御できるという。
SmartSCの特長(出典:YAMABISHIのウェブサイトより)
同社も含め従来の蓄電システムでは、「せっかく発電が多いのに蓄電池の容量がいっぱいで貯められなかった」「電力を使いたいタイミングだが、蓄電池に十分な電力が溜まっていなかった」といった事態が起きやすいという課題があった。
たとえばデマンド値が上がりやすい時間帯や停電時などに備えるには、蓄電池の充電率を高くして十分な電力が溜まっている必要がある。
しかし一方で、充電率が高止まりしたままだと、せっかく発電が多い時間帯に余剰電力を溜めようにも十分な容量が残っていない、といったことも起こる。
つまりあちらを立てればこちらが立たず、となりやすい蓄電池。
そこでSmartSCでは、電力の発電量や使用量などの予測データに基づき、蓄電池を自動的に充放電制御することで、こうした課題を解決できるという。
「SmartSCの特長の一つは予測機能です。これが蓄電池の能力をフル活用するための下地になります」(平瀬氏)。
天候データや過去の電力使用傾向などを元に、36時間後までの電力発電量と使用量を予測できるという。
それによって「明日は雨で発電量が少ない見込みのため、充電率を高く維持する」「明日は日射量が多い予想のため、今夜から蓄電池を消費して容量を空けておく」といった制御で電気代やCO2排出量の削減につなげるのだ。
SmartSCの特長(出典:YAMABISHIのウェブサイトより)
また投資回収期間の目安はどれくらいだろうか?
「太陽光設備だけの場合では、回収期間は10年いかないくらい。そこに蓄電池を含めると13~15年ほどが目安です。さらにピークカットによる電気代削減も期待できるデマンドの形であればあるほど、回収期間が10年に近づいてくるというイメージです。加えて、UPS(無停電電源装置)と同グレードの停電対策や太陽光も併用した長時間バックアップによる事業継続といった効果も同時に提供いたします」(平瀬氏)。
効果を発揮しやすい施設の特徴とは?
SmartSCによる電気代削減効果が、特に発揮されやすい施設の条件はあるのだろうか?
「まず安価になってきた太陽光パネルを出来る限り設置することで、余剰の電力が生まれることが大前提です。当たり前ですが、余らなければ溜められません。さらにできればピークカットによって基本料金を削減できる余地もあると望ましいです」と平瀬氏は続ける。
そういう意味では海老名工場はこの条件にマッチしているという。
「海老名工場では冷暖房が消費電力の主体です。春秋は冷暖房が不要なため電力の余剰が出ます。また休日は基本的に無人となるためさらに余剰が出ます。これらを蓄電池に充電することで使用料金の削減額が大きくなります。次に冬は朝の暖房の立ち上がりで電力消費が急増しますが、蓄電池の放電によりピークカットすることで基本料金の削減額が大きくなります。そしてSmartSCによりこれらの削減を両立しています」(平瀬氏)。
SmartSCによって、これらの削減を両立できるという。
逆に電力使用が一定の設備が主な施設では、余剰やピークが生まれないため蓄電池による電気代削減効果を期待しづらくなるというわけだ。
これまでは自治体や官公庁による導入が多くを占めていたが、最近の自家消費ブームを受けて、民間企業による導入や検討も増えているという。
「電気代削減が目的のケースが一番多いですが、それだけでなく停電対策によるBCP、使用電力の再エネ化など複数の目的で検討される方も多いです」(平瀬氏)。
導入効果の見える化も強化
太陽光や蓄電システムの実績は、いわゆる「見える化システム」がなくとも毎月の電気料金の請求書で確認はできる。
しかし請求書だけでは、電気代や電力使用量といった結果の数値しか分からない。電気代削減に関する課題や対策を抽出するには、電池容量(SOC)や再エネ達成率といった、より細かな項目を確認できる「見える化システム」が必要だ。
YAMABISHIの蓄電システムには、従来からWEBみえる化システムが標準搭載されているという。
「今回SmartSCのリリースにより自家消費とピークカットの併用が促進されるため、使用料金に加えて基本料金および蓄電池の効果について蓄電システム有無の対比ができるよう大幅にアップデートしました」(平瀬氏)。
WEBみえる化システムの画面イメージ(出典:YAMABISHI提供資料より)
今後は系統向けサービスの展開も
同社はVPP(仮想発電所)実証事業において周波数制御技術の確立を進めている。今後はSmartSCと周波数制御など系統向けサービスを同時マルチユースさせることで、さらに太陽光発電や蓄電池の価値を高めていくという。
自家消費設備や蓄電池システムは、企業にとって安い投資ではない。せっかく導入した設備のパフォーマンスを最大化させるためにも、同社のシステムの重要性は高そうだ。
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