毎月の電気代を削減する手段として、「電子ブレーカー」という機器を提案されたことのある企業は多いかもしれない。
電子ブレーカーはブレーカー機器の一種で、電気代に占める基本料金の削減を目的とする電気代削減・省コスト機器だ。設置対象となるのは、低圧電力の施設。
低圧電力とは、小規模な工場や事務所、マンションなど、電力使用規模が比較的小さい施設が対象の電力契約。具体的には、契約電力が50kW未満の施設を指す。
こうした小規模な施設は電力使用量が少ないため、電気代の削減余地が大規模施設よりも限られがちだが、電子ブレーカーによって基本料金を10~20%、最大50%ほどの削減も期待できる。
しかし設置にあたっては、施設の電力使用状況に応じた適切なブレーカー容量を選定する必要があるが、施工会社などの知見不足によってトラブルに発展するケースもあるようだ。
たとえば電子ブレーカーは電力の契約容量を適切に下げることで基本料金を削減する機器だが、仮に容量を下げすぎてしまった場合は、空調やエレベーターといった設備の稼働に支障をきたすこともあり得るのだ。
しかしこれは電子ブレーカー自体の問題というより、業者の知見不足が大きいだろう。電子ブレーカーの設置そのものは難しくないが、施設にとって適切なブレーカー容量を判断するには一定の知見が必要だからだ。
本来であれば、現地調査を経て適切な容量を判定することで、大きな電気代削減効果を期待できる。
この記事では、電子ブレーカーの仕組みや価格、導入フローなど、検討の際に押さえておきたい情報を紹介する。
電子ブレーカーの設置例
一般的なブレーカーとの違い
室内でエアコンや電子レンジ、ドライヤーといった機器を同時に使ったために、ブレーカーが落ちて電気が止まってしまった経験は誰もがあるだろう。
これは電力使用の増加などによって一定の電流値を超えた際に、設備への負荷を減らすためにブレーカーが電流を遮断したためだ。
つまりブレーカーは、過剰な電流から設備を守る安全装置といえる。
ただ一般的なブレーカーの場合、電気代削減という意味では課題もある。
電流が遮断されて電気が止まってしまう事態を避けるために、余裕を持って大きめの契約容量を確保、つまり実際の使用実態より高めの基本料金を払う必要が出てくるのだ。
仮に許容範囲を超える電力が流れた場合、一般的なブレーカーは電流を即座に遮断する。たとえ電流値の超過がごく一時的で、設備への負荷を無視できるレベルだったとしてもだ。
だから停電を避けるために、余裕を持った契約容量を確保しなくてはならなくなる。
しかしもし電流値の超過が一時的で、設備に影響しない水準だと判断された場合にはブレーカーによる遮断を行わない、という仕組みを実現できれば、普段から契約する電力容量はより小さくて済むことになる。つまり基本料金を削減できる。
上記を可能にするのが電子ブレーカーだ。
電子ブレーカーの仕組み
電子ブレーカーの場合、電流値が一時的に超過しただけで即座に電気を遮断することはない。
なぜなら電流が流れている時間の長さや大きさを内部のCPUでより正確に感知できるため、電流値の超過が「許容範囲」かどうかをよりきめ細かく感知した上で、制御できるためだ。
一方で「”許容範囲”とは具体的に何を指すのか?超えても本当に問題はないのか?」といった懸念もありそうだ。
この許容範囲については、日本産業規格(JIS)という国家基準が定めている。「設備を保護するために、これくらいの電流値の超過が何分間続いたら、ブレーカーを作動させなくてはならない」といった具合だ。
つまりこのJIS規格が定めた許容範囲内であれば、電流値の超過は問題にならないのだ。
電子ブレーカーは、JIS規格の許容範囲いっぱいの時点で遮断できるため、普段からの契約容量がより小さくて済むようになるという仕組みだ。
一般的なブレーカーでは、ここまできめ細かな制御はできない。
通常のブレーカーは、電気の流れで生じる熱によって電流を感知し遮断する(熱感知式)。そのためデジタル数値で感知できる電子ブレーカーほど、正確な制御が難しい。しかも電流でどれだけの熱が生じるかは、外気温にも影響されるため、たとえば真冬の北海道だと熱が生じづらく遮断がされにくくなる、いったことも起き得る。
電流値を正確に感知した上で、遮断を制御できる電子ブレーカーがあるからこそ、ミニマムかつ適切な契約容量に設定し、基本料金を削減できるのだ。
導入に必要な電力契約
記事の冒頭にて、電子ブレーカーは低圧電力向けの節電機器だと説明したが、「低圧電力」と一口にいっても、契約種別がいくつかある。
電子ブレーカーを導入するには、その中でも特定の契約種別である必要があるのだ。
まず上記の図のように、低圧の契約種別は「電灯契約」と「動力契約」の2つに大きく分けられる。
電灯契約は、一般家庭で使う照明やエアコンといった家電など、電気使用量が比較的小さい機器を対象にした契約だ。
一方で動力契約は、業務用エアコンやエレベーター、医療機器など、法人施設で使われるような大型の設備を動かす際の電力契約になる。
電子ブレーカーによって電気代を削減するには、そもそもの電力使用量が一定以上である必要があるため、契約区分は動力契約であることが前提になる。
さらに動力契約には、以下のように2つの契約種別がある。それぞれで契約電力を決めるための算定方法が異なるのだ。
- 負荷設備契約
- 主開閉器契約
電子ブレーカーを導入する場合は、上記のうち主開閉器契約という契約にする必要がある。
ただそもそもどちらの契約がお得になるかは、電力の使用状況によって異なる。電子ブレーカー導入時に主開閉器契約への変更を検討する場合は、その点も考慮したい。
主開閉器契約のほうがお得の場合
もしエアコンや冷凍庫など、複数の電力機器を常にフル稼働させている施設であれば、負荷設備契約のほうが電気代がお得になる。
一方でそれぞれの電力機器が稼働する時間帯が異なったり、そもそも稼働していない機器があるのであれば、主開閉器契約のほうが電気代削減につながる。たとえばエレベーターやコンプレッサーのように、使用時間がある程度限られた設備がメインというような場合だ。
基本料金の額を左右する契約電力の算定方法がそれぞれで異なるため、こうした違いが出てくるのだ。
負荷設備契約では、すべての電力機器を同時にフル稼働させた時の消費電力(kW)を前提として、契約電力が決まる。
ただ現実的には、事業所のすべての設備を常にフル稼働させているわけではないケースは多いだろう。
そうであれば主開閉器契約がお得になる。
主開閉器契約の契約電力は、ブレーカーの容量で決まる。設備の電力使用実態に合わせたブレーカー容量に設定することで、基本料金を下げる余地が出てくるのだ。
ブレーカー容量で基本料金が決まる契約にできれば、適切な容量での設備運用を電子ブレーカーでまわすための下地が整ったことになる。
導入に最低限必要な電力規模
ここまで電子ブレーカー導入のための前提条件を説明してきた。
さらに「電子ブレーカーによって電気代の削減余地はあるのか?」「費用対効果の回収期間は?」といった検討も必要だ。
仮に電力使用の規模があまり小さすぎると、電子ブレーカーによる電気代の削減幅が小さすぎて、投資費用の回収が難しくなってしまう。
そうした意味では、対象施設の契約電力は15kW以上が望ましい。少なくとも10kWは欲しいところだ。
契約電力の容量(kW)は、毎月の電気代明細書に記載されているため、一度確認してみても良いだろう。
低圧の施設で上記の電力規模があれば、基本的に電子ブレーカー導入の対象になり得る。
電子ブレーカーの価格帯と電気代削減効果
電子ブレーカーの費用については、現地調査や工事、本体を含めて50万円半ばほどが一般的だ。
低圧のように小規模な施設にとっては安くない金額だが、もし今の契約電力が少なくとも20kW前後であれば、基本料金を半分ほどにできる見込みが高い。
支払方法も一括払いだけでなく、リース契約を結び削減額の中から毎月払うという企業も多い。
リース期間は7年ほどが一般的だ。企業にもよるが、たとえば期間を短く5年ほどにしてしまうと、今度は月々の支払費用が削減額を上回る可能性も出てくるためだ。
以下が福西電機株式会社が手がけた案件にて、電子ブレーカー(ジェルシステム製)を導入したある施設による電気代削減例だ(数値は少し丸めている)。
また電子ブレーカーの耐用年数は10年ほどで、その後また交換が必要になる。ちなみにメーカーによると、電子ブレーカーの故障率は1%に満たないほど低いため、使用中の故障はあまり心配する必要はないだろう。
導入までの流れ
電子ブレーカーを導入する流れは、大きく以下の7ステップに分けられる。
電子ブレーカーの導入可否を判断するために、まず現地調査を実施する。調査では、現状の設備による電力の使用量や時間の長さなどを計測して、適切なブレーカー容量を判断する。
また現状把握に向けて併せて以下のような資料も必要だ。
- 電気代の明細書(直近1年分)
- 図面(接続負荷のわかる結線図など)
- 設備一覧表
設置工事自体は非常に簡易だが、作業中に数十分ほど停電させる必要があるため、工事のタイミングの検討は必要そうだ。
現地調査の実施から設置工事完了の期間は、長くても1ヵ月かからない程度。顧客の検討状況などにもよるが、最短で調査から1、2週間で工事完了まで進めることも可能だ。
また電子ブレーカーによって契約容量を下げるにあたって、導入前後のタイミングで電力会社へ申請する必要もある。申請方法やタイミングは電力会社によって異なるため、施工会社などに確認すると良いだろう。