ZEB(ゼブ)とは、「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」の略称。一次エネルギー消費量(年間)が正味ゼロ、もしくはマイナスになる建築物を指します。
実現できれば、1つの建物の中でエネルギーを自給自足できることになります。
主な実現方法としては、運用・設備改善などの「省エネ」に加え、蓄電池を使った「畜エネ」、再生可能エネルギーを活用した「創エネ」の3つを組み合わせることになります。
オフィスビルだけでなく、スーパーマーケットや老人・福祉ホームなどでの事例があります。
ZEBの達成によって、企業にとっては光熱費削減になるだけでなく、施設の不動産価値向上やCSR活動への寄与といった様々な効果を期待できることになります。
目標とロードマップ
ZEBを後押しする政府は、
- 2020年までに「新築公共建築物等」で
- 2030年までに「新築建築物」の平均で
ZEB化を達成する計画(エネルギー基本計画)です。
既築のビルをZEB化する企業も出てきているものの、上記のように政府目標の対象は新築建築物が対象になります。
こうした政府目標の実現に向けたロードマップを、経済産業省や国土交通省などを含めた検討委員会が2015年に取りまとめました。
このロードマップによると、ZEBの実現に向けて次の3つを組み合わせる「ヒエラルキー・アプローチ」という手段を取るとしています。
- パッシブ技術:断熱や日射遮蔽、自然換気、昼光利用などを最大限に活用
- アクティブ技術:高効率な設備によって省エネルギー化を実現
- 再生可能エネルギー:創エネによってエネルギー自立度を極力高め、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにする
また建物の状況に応じて現実的にZEBを狙えるよう、次の3つをまとめて広義の「ZEB」(ZEBシリーズ)としています。
- ZEB Ready:一次エネルギー消費量を省エネ基準の50%以下まで削減(再エネ除く)
- Nearly ZEB:一次エネルギー消費量を省エネ基準の25%以下まで削減(再エネ込み)
- ZEB:一次エネルギー消費量を省エネ基準から0%以下まで削減(再エネ込み)
出典:環境省ホームページ
またZEBの定義は定性と定量の2つに分けられており、それぞれの詳細は次のようになります。
出典:「ZEBロードマップ検討委員会とりまとめ」(経済産業省)より作成
環境省では、まずは3つの中で最もハードルが低い「ZEB Ready」を目指すことを推奨しています。そのために、高断熱化や日射遮蔽といったパッシブ技術を最大限に活用しつつ、設備の効率化(アクティブ技術)も組み合わせて省エネを進めることが重要という考えです。
出典:「ビルは”ゼロ・エネルギー”の時代へ。」(環境省)
ただ当然ながら「ZEB Ready」を達成するためには、通常の建築物よりも費用がかかります。ZEBロードマップフォローアップ委員会によると、主要施設ごとの増額率は次のようになります。
- オフィスビル:112%
- スーパーマーケット:118%
- 老人・福祉ホーム:109%
ZEB支援制度の数々
ノウハウ展開
建物のZEB化に取り組んだ例はまだ一部にとどまります。さらなる普及に向けて事例やノウハウを広げることが重要という考えのもと、経済産業省と環境省は、企業によるZEBを支援する実証事業を実施。これまでに採択された実証事業は、累計で195件に上ります。
出典:「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業調査発表会2019」(一般社団法人 環境共創イニシアチブ)
さらにそこで得られたノウハウを設計者向けとビルオーナー向けに展開する事業を2016年度から実施しています。
設計者向けに作成された「設計ガイドライン」では、具体的な設計プロセスや技術、事例集などが、事務所や病院などの施設別や規模別にまとめられています。さらに設計条件や設備などの変更による省エネへの影響を、設計者が計算できるエクセルシートも公開されています。
またビルオーナー向けの「パンフレット」には、ZEB化によるメリットや進め方、補助事業の詳細、事例などが掲載されています。
知見を持つ支援企業を積極的に公開
ZEBを導入したいビルオーナーが、適切なノウハウを持った支援企業を探せないという課題もあったといいます。
そこで経済産業省は、ZEBの知見を持つ設計会社や設計施工会社、コンサルティング企業などを「ZEBプランナー」として登録する制度を2017年度から始めました。
2019年11月末時点で、174社のZEBプランナーが登録。ZEBプランナーの登録状況を種別ごとにみると、「省エネコンサル」が最多で、次いで「設備コンサル」などとなっています(19年10月25日時点)
出典:「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業調査発表会2019」(一般社団法人 環境共創イニシアチブ)
ビルオーナーの課題に沿ったZEBプランナーを探せるよう、サイトでは対応可能な都道府県や建物用途、プランニング実績などによって検索できるようになっています。
さらにZEB建築事例の周知や、実施したビルオーナーによるPR支援などを目的に、ZEBに取り組んだビルオーナーを「ZEBリーディング・オーナー」として登録する制度も始めています。こちらは2019年10月末時点で220の事例が登録されています。
出典:「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業調査発表会2019」(一般社団法人 環境共創イニシアチブ)
おわりに
政府によるロードマップに記載の通り、ZEB普及に向けて現在のノウハウ確立フェーズから、今後はノウハウの標準化もより視野に入ってくることになります。ロードマップに合わせて今後も様々な情報発信や支援策が出てくるものと思われるため、ZEB化を検討する企業や自治体は、これらをキャッチアップしていくことが引き続き重要です。
出典:「ZEBロードマップフォローアップ委員会とりまとめ」(経済産業省)
補助金一覧シートのご案内
全国の各自治体によるエネルギー系補助金(令和2年度)の一覧シートをダウンロードいただけます。下記フォームよりメールアドレスをご入力ください。(利用規約・個人情報の取扱いについて)