電気やガスなどの、エネルギー使用状況の「見える化」や分析、自動制御など、全般的なエネルギーマネジメントを可能にするのがEMS(エネルギー・マネジメント・システム)です。
EMSには工場を対象としたFEMSや、住宅を対象としたHEMSなど、複数の種類があります。その中でも、オフィスビルや商業施設などを対象としたシステムがBEMS(ベムス)です。
BEMSはBuilding and Energy Management Systemの略で、「ビル・エネルギー管理システム」という意味です。各種センサーや監視装置、制御装置などの要素技術で構成されたシステムを指します。
BEMSによって空調や照明などの設備機器によるエネルギー使用状況を「見える化」できます。さらにこうした設備機器の稼働を自動で制御することも可能になります。
つまり、BEMSは業務用の建物によるエネルギーを総合的に管理できるシステムなのです。省エネやCO2(二酸化炭素)排出量の削減に欠かせないシステムとして、今後のさらなる普及が予想されます。
この記事では、BEMSの概要や仕組み、導入事例などについて解説します。
BEMSの主要機能の一つが、エネルギーの使用状況の「見える化」です。
BEMSによって、電気やガスなどのエネルギー使用状況や、各種の設備機器による稼働状況を一元管理できます。また、こうしたデータを専用端末やパソコンの画面などで閲覧できるようになります。
これによって「いつ」「どこで」「何が」といった観点でエネルギーの使用状況を詳細に把握でき、建物全体として省エネを実現するための改善プランを立てられるようになるのです。
もう一つの大きな機能が、設備機器の「制御」です。空調や照明などのエネルギー機器や発電・蓄電設備などを自動制御することで、電力使用量の削減やピークカットにつながります。
具体的には「人感知センサーと連動して一定時間人のいない部屋の照明を消す」「温度センサーと連動して空調温度をコントロールする」などが挙げられます。
機器を適切に制御することで、省エネを進めつつ、人に我慢を強いない快適な環境を両立できるようになります。
BEMSは建物や施設の種類によって、システムの構成や要求される機能が多岐に及びます。
一般的にBEMSを構成するサブシステムは、「エネルギー情報システム」「エネルギー制御システム」「エネルギー管理共通基盤」の3種類に分けられます。
エネルギー管理共通基盤では、人感知センサーや温度・湿度センサー、エネルギー機器などからデータを収集・蓄積します。そしてエネルギー情報システムでデータの「見える化」や分析、さらにエネルギー制御システムによって、空調や照明などの機器を最適制御するのです。
BEMSの例(出典:環境省の資料より)
また一般社団法人 電子情報技術産業協会では、BEMSが制御する設備機器として、ビル内の設備機器のほか、各オフィスに設置されている各種のIT・エレクトロニクス機器類も対象となるとしています。近年、こうした機器のエネルギー使用状況を可視化・制御できるソリューションの登場を考慮したためです。
これらに加え、今後は「太陽光発電装置」「コジェネレーション(熱電併給)設備」のような創エネ装置のほか、蓄電池なども制御の対象になるとしています。
昨今、BEMSを構成する機器類は必ずしも建物内に設置されるとは限りません。監視装置や分析装置は、エネルギー管理を手がける業者のクラウド上に設置されるケースもあります。遠隔地から複数の拠点を一括して管理するスタイルをとる企業・団体もあります。特に中小規模の建物や複数のチェーン店をもつ場合、一括してエネルギー管理するメリットは大きく、今後広がっていくでしょう。
中小規模のビルのBEMS導入事例として、ライオン両国ビル(東京都墨田区)のケースを見てみましょう。同ビルは1971年4月に完成し、地上10階、地下1階建てです。延床面積は約8,447平方メートルになります。用途は事務所で、契約電力は600kWです。2013年度に東京及び国の補助金を活用してBEMSを導入しました。
同ビルでは、2011年3月の東日本大震災を機に耐震対応と合わせ、さまざまな省エネ対策を進めていました。しかし電力の「見える化」への取り組みがなかったため、その効果を検証することが難しかったといいます。
目視と手動によるデマンド管理のため、夏にデマンド超過を起こしてしまうこともありました。
そこで、フロア単位での使用電力量や、動力・照明など用途別の使用電力量を把握しようとBEMSを導入しました。同システムでは、ビル全体の動力と電灯(計44点)の使用電力量を計測し、8点で空調を制御しました。
こうした「見える化」と自動制御の結果、契約電力超過を防ぐことができたといいます。
例えば、導入前は夏期に冷凍機がフル稼働していました。しかし導入後は設定したデマンド値(最大需要電力)を超えそうになると警報で通知するようになり、契約電力超過を防げました。加えて、換気ファンなど、あらかじめ登録しておいた機器の運転を自動停止できるようになりました。
また、管理室で各部屋の室内温度を把握し、空調を遠隔操作できるようになったため、快適性を損なうことなく空調設備を間欠運転することが可能になったといいます。建物全体の電力使用量にも、顕著な削減効果があったそうです。
さらに、用途別の電力使用量を分析することで、電気を大量に使っている機器や、改修の必要がある機器を明確にできました。今後、省エネのための中長期の修繕計画に生かしていく予定だそうです。
BEMSの普及率
BEMSの市場規模や普及率について、総合マーケティング会社の富士経済グループ(東京都中央区)が調査結果をまとめています。
調査結果によると、BEMSの市場規模は2015年度には141億円でしたが、2020年度には203億円(2015年度比44%増)、2025年度に226億円(同60.3%増)に拡大すると予想されます。
富士経済グループは市場拡大の要因として、「建物の付加価値の一つとして安定した需要が見込めること」「新規電力事業者が事業の一つとしてBEMSの販売を強化すること」「政府の普及支援策がそれを後押しすること」などを挙げています。今後、中小規模のビルも含め、BEMS導入が着実に広がっていく見込みです。
普及率を見てみると、「有望4業種施設」(事務所ビル、物販・飲食・サービス施設、医療・福祉・宿泊施設、大学)でのBEMS普及率は2015年度で12%になります。
中でも物販・飲食・サービス施設が29.4%で最も高くなっています。事務所ビルは4.3%と最も低いですが、2020年度には18.7%に高まると予測されています。物販・飲食・サービス施設についても2020年度に35.9%に高まるといいます。チェーン化率が高いうえに、総エネルギー消費量に占める電力の割合が高いことから、BEMS導入による使用電力量削減のメリットが大きいためです。
省エネの基本となるエネルギー使用状況の「見える化」だけでなく、管理と分析、制御も含めた全般的なマネジメントを可能にするのがBEMSです。
データを元にしたきめ細かな制御によって、エネルギー使用量の削減やデマンドコントロールをより効果的に実施しつつ、快適性との両立を期待できます。
国による普及後押しの動きもあることから、今後は中小規模ビルを中心に、さらにすそ野が広がりそうです。
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