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旭鉄工のIoT施策とノウハウ、一問一答

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生産設備のIoT化によって、劇的に生産性を向上させた自動車部品メーカーの旭鉄工株式会社(愛知県碧南市)。木村哲也社長は、「中小企業こそIoTを」という考えで著書「Small Facetory 4.0」も出版しています。

旭鉄工によるIoT施策について、木村氏と南山大学の青山幹雄氏(理工学部ソフトウェア工学科 教授)とパネルディスカッションを実施しました。

新価値創造展2019」(11月29日)で語られた内容を書き起こしでお伝えします。

 

前回の記事

IoT施策の背景

青山氏:そもそもなぜIoTの取り組みをスタートしたのでしょうか?

木村氏:トヨタに在籍した最後の3年間で生産調査部というところにいましたが、その後に旭鉄工へ移りました。移った後に、「もっと改善をがんばりなさい」とトヨタさんから言われる。改善するためにはちゃんと現場のデータを把握しなさいと怒られるわけです。

ただ生産調査部にいたので、現場のデータの収集方法は知っているわけですが、それをやろうと思うと手間と時間がものすごくかかるのでそう簡単にできない。だったら自動で取ってやろうとなったのが最初ですね。

最初は設備の稼働と停止だけを見ていましたが、段々と発展して生産個数やサイクルタイムなど追加していくうちに複雑になっていきました。

 

まずはスモールスタート

青山氏:ただ新しい取り組みをすると古参の社員の方などから抵抗もあるのではと思いますがいかがですか。

木村氏:あまり困ったことはないです。まず一つ目は基本的に現場が楽になることしかやらない。たとえば出てきたデータをすべて手書きで記録しなさいとなると、大変だから嫌がる。でも自動で集まってくるデータの一部を少しメモしてください、であれば楽だよねということでやってくれます。

二つ目ですが、当然新しいやり方になじめない人はいっぱいいます。でもそんなことを考えたら何もできません。それよりも賛同してくれる人と共に小さい範囲で良いからやる。そこで成功事例を積み重ねれば段々広がると思ってやりました。

青山氏:中小企業のように大きな投資が難しいケースは、スモールスタートで始めることが一つの良いやり方なのですね。(木村氏の)にも書かれていましたが、ラズパイ(Raspberry Pi)を使いながら数万円で始めたとありました。大きな設備を買うよりは、ある程度自作でやっていくということですね。その辺りの秘訣はありますか?

木村氏:最初から大がかりな取り組みをやろうとしないことです。我々も最初はとても狭い部屋にこもり、ラズパイではんだ付けすることから始めました。

青山氏:またいくらデータを集めても使い方や着眼点がないと成果につながらないというお話でしたが、その辺りでサジェスチョンはありますか?

木村氏:我々が欲しいデータは、生産個数や稼働・停止時間に絞っていました。生産技術の方はなぜかたくさん取りたがるのですが、余計なデータは取らない方針でした。トヨタの車両実験部時代もそうでしたが、余計な実験データを取りすぎるとかえって訳が分からなくなるので。

 

質疑応答

青山氏:ここで会場からご質問を募ってみたいと思います。どなたかいらっしゃいますか?

参加者1:新しいことを始める際に、既存の業務がある中で心理的なハードルが高いという課題があるかと思います。たとえばGoogleであれば「20%ルール」で新しい取り組みをできる仕組みがありますが、そういった工夫はありますか?

木村氏:そういった工夫はあまりやっていません。それよりも大事なのは失敗しても良いよという環境づくりです。失敗できないと思うと新しいことができません。普段から怪我以外の失敗はしていいと言っています。

具体的にいうと、新しいというほどではないですが、サイクルタイムを短くしようとすると、もっとドリルの刃を早く送りたい。でもどこまで早くすると折れるか分からない。では折れるまでやればいい、ただ怪我してはダメよという風に言います。失敗して怒ることはしません。それが一番大事だと思います。

青山氏:失敗を許容するような文化を醸成して、社長がメッセージを発すればやってみようとなるわけですね。

木村氏:そうですね、私が旭鉄工に来た時は新しいことをやろうという雰囲気が全くありませんでした。2013年に来た時に義理の父からは「3年間何もするな」と言われたんです。翌日から無視してしまいましたが(笑)。

青山氏:叱るのではなくモチベーションを上げることが、新しいことにつながるということですね。ほかにご質問いかがですか?

参加者2:新しい事業を始めるときに、どこまで内部リソースでやるか、あるいは外注するかといった切り分けはどうお考えですか?

木村氏:たとえば我々は製造現場を持っているのが強みなので、現場とデータを突き合わせるところは内部でやりたい。そのためにデータを見る人はうちで雇いたいという考えでした。けれども餅は餅屋なので、営業は内部ではなくても良いなと思っています。

青山氏:本当に価値を生むところは内部にしないと中々うまくいかないということだと思います。うまく内製化することでモチベーションや技術が上がるという効果もあるのではないかと思いますがいかがですか?

木村氏:最初は機械のプログラムを書き換える作業は外注でした。ただ費用が高いし時間もかかる。今は現場の社員が自分で勉強して書き換えられるようになっているわけです。意外とやれてしまうんですね。結果的にものすごく改善できるので良かった。

これまで製造現場で稼働の面倒をみていた係長が、今では他の会社に行って生産性を上げるための指導をしているわけです。彼らのモチベーションは非常に高いですし、やりがいがあると楽しんでやっています。

青山氏:ほかにご質問はありますか?

参加者4:零細企業くらいの規模の会社がIoTを導入するにあたって、コスト面や考え方についてヒントがあれば教えていただければと思います。

木村氏:まずコスト面ですが、我々のお客様は10名ほどの規模の会社も結構います。100名も必要ありません。たとえば1ラインあたり1万円ほどでできるので、5ライン分のデータを取って改善しようとしたら月5,6万円でできてしまいます。小さい会社だからできないということは全くありません。

本当のハードルはどちらかというとそこではなくて、改善のやり方が分からないというケースです。そのため先ほどご紹介したように、Webでやり方が学べるコンテンツや、短期集中のコンサルといったメニューを用意しています。

参加者4:社長が入社される前は、新しいチャレンジへの文化がなかったというお話がありましたが、実際導入する際にIoTを積極的に使うような文化を全社で広めるにはどうすれば良いですか?経営者がリーダーシップを発揮してというお話もありましたが、社長がOKでも部長や専務が難色を示すケースもあると思うのですが。

木村氏:会社全部をいきなり良くしようとは全く思っていませんでした。今でも何か新しいことを始めるのに全社的なコンセンサスを取ろうとはこれっぽっちも思っていません。すごく狭い範囲でまず成功体験を積んでいくことが重要だと思います。さらにそこで成果を挙げた人を全社的に表彰するという、こまめでアナログなやり方を積み重ねました。

青山氏:全員のコンセンサスをいきなり取るのは難しいと思います。一部の賛同者を巻き込んでスモールスタートして成果を出す。そうするとなるほどと思ってくれる人も増えてくる。また10人規模の会社でも成功事例があるので、そういう事例を参考に始めていくのも良いかもしれません。

木村氏:最初のころ限られたラインでやっていた頃に、あるラインでデータを毎日みているとあまり生産性が上がっていなかったので、ある期日までに上がらなかったらラインを増設しようとなっていました。

私は絶対に増設させたくなかったので、どうしたかというと「毎日いくから」と宣言して連休明けに毎日工場にいきました。私がラインの担当者になったつもりで色々とアイデアを出す。そうすると社長に言われてみると確かにそうだよねとなったりします。現場は今までの作業が当たり前になっている部分があるからです。もう一つは私がたくさんアイデアを出すと社長があれだけアイデアを出すのだから自分たちもやらなければとなる。そこは地道に努力するしかないと思いますね。