施設の屋根に太陽光発電システムを設置し、発電された電力を自社で消費する自家消費。
電力会社からの購入量を減らせることで、電気代の大幅な削減が可能になるだけでなく、環境施策やBCP対応などにもなることから、導入に踏み切る企業が増えている。
ただ一般的に数百万~数千万円規模の設備投資が求められるため、費用面を気にする企業も多いだろう。
今回は自家消費の費用まわりについて紹介する。
解説するのは、アップソーラージャパン株式会社(東京都千代田区)の佐藤 彰氏(副社長)。
同社は、太陽光発電設備の製造や調達、設計、施工まで一気通貫で手掛けるグローバル企業だ。
太陽光パネルのメーカーでもありつつ、太陽光発電システムの専門商社でもあるため、システム設計から部材調達までワンストップで実施できる点を強みとしている。
アップソーラージャパンの佐藤氏
全量自家消費と売電、どちらがお得?
そもそも自社で太陽光発電システムを設置するのであれば、発電した電力の全量を自家消費するほかに、FIT(固定価格買い取り制度)の元で余剰電力を電力会社に売電して収益を得るという方法もある。
費用対効果を考慮した場合、どちらがより効果的だろうか?
「余剰電力が多い施設であれば、その分を売ることで投資効率が上がります。ただしFITで売電するには連系負担金の支払いが発生しますし、申請時間もかかり、実施時期が経産省や電力会社の回答に左右されてしまいます」(佐藤氏)。
さらに佐藤氏はこう話す。
「売電する場合、補助金の対象から外れることが多くなり、支援制度の恩恵も受けられません。そのため発電した電力を効率よく消費できる環境であれば、全量自家消費をお勧めします」(佐藤氏)。
政府は、FITの間口を年々狭めている一方で、自家消費型は中長期的に推進しようとしている。つまり国による継続的なバックアップを期待できることも、自家消費を選ぶ理由の一つになりそうだ。
自家消費にかかる費用は?
自家消費を実施する場合の費用感について、アップソーラーでは次のような表を一例としてまとめている。
パネル容量や屋根面積ごとに、年間発電量や導入コスト、投資回収期間などが記載されている。また算出の基となる日照条件や電気代の水準はエリアによって異なるため、東京電力管内と九州電力管内の2種類が用意されている。
自家消費の概算(東京電力管内の場合)
自家消費の概算(九州電力管内の場合)
※発電した電力が100%消費出来た場合の試算
上記の表によれば、導入コストは約184万~1.1億円のレンジになる。東電管内であれば、年間削減額は約22万~2,160万円。投資回収期間(参考)は、約5~8年ほどといった具合だ。
このような水準を前提に、アップソーラーは一例として以下の条件での試算結果を示している(システムを25年間使用した場合)。この場合、25年のスパンでみると1kWhあたりの電力コストは6.8円だ。
仮に電力会社から産業用電力を購入した場合、コストは14~19円/kWhほどになるため、自家消費によって半額以下に抑えられたことになる。
- パネル容量:126kW
- 屋根面積:1,088㎡
- 年間予想発電量:136,141kWh
- 投資回収期間:7年
- 予想発電量(25年間):3173,375kWh
- 初期投資費用:1,650万円
- メンテナンス費用(25年間):350万円
- 固定資産税(25年間):171万円
産業用の電気代は長期的に値上がり傾向にある。毎月の電気代に含まれる燃料費調整額や再生可能エネルギー賦課金の額が年々上昇しているためだ。
燃料調整額(左)と再エネ賦課金の推移
自家消費によって外部からの購入量を減らすことで、こうした値上がりリスク回避にもつながるため、中長期的な恩恵は大きそうだ。
自家消費の主要機器、アップソーラーは低価格で提供
とはいえ設備投資を伴う手段のため、費用をいかに抑えるかが気になるところだ。
「弊社は太陽光パネルのメーカーでもあります。機器の中間マージンが一切かからないため、卸売価格の水準で提供できる点が強みです」(佐藤氏)。
つまり一般的な販路の場合、メーカーと需要家の間に販売店や商社が入ることが多いが、アップソーラーは、機器の製造と専門商社の両方を兼ねているため中間マージン削減を実現できるのだ。
特に以下のような基本的な費用項目のうち、部材価格の半分以上を占める太陽光パネルを自社で製造しているため、削減効果が大きくなっているようだ。
- 太陽光パネル
- パワーコンディショナー
- パワコン出力抑制装置
- 架台
- ケーブル類
- 工事費用
税制優遇も活用可能
また自家消費設備を設置するにあたって、様々な税制優遇が用意されている。代表的な例が、中小企業庁による「中小企業等経営強化法」と「生産性向上特別措置法」だ。
「税制の名前や内容は毎年変わりますが、中小企業等経営強化法では設備導入にかかった費用を即時償却できます。また生産性向上特別措置法では、設備の固定資産税を最大3年間に渡ってゼロ~2分の1に抑えることが可能です」(佐藤氏)。
まず中小企業等経営強化法についてだが、即時償却によって法人税の節税対策になる。
自家消費のような設備投資を行った場合、通常は減価償却という形で複数年にわたって経費として少しずつ計上していくことになるが、即時償却では投資した初年度に全額を計上する。
つまりそれだけ利益が圧縮されることになるため、節税対策につながるのだ。
以下の条件を満たす「中小企業等」が対象となる。
- 資本金又は出資金の額が1億円以下の法人
- 資本金又は出資金を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
- 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人
- 協同組合等
同法の指定期間は2021年3月末までとなる。
また生産性向上特別措置法は、「生産性を高めるための設備」の固定資産税を軽減するもの。
「導入促進基本計画」を策定した市区町村において、該当する設備を導入した中小企業が対象だ。また以下の条件に当てはまる必要もある。
認定を受けられる「中小企業者」の規模(出典:中小企業庁資料より)
適用期限は従来2021年3月末までだったが、2023年3月末まで延長されている。
こうした優遇制度を適切に活用することで、出来る限り負担を軽減したいところだ。
「税制優遇や補助金については、内容によりますが基本的に申請を生業にするプロをご紹介しています。特に補助金は申請のやり方で採択率が変わりますので、プロの補助金代行会社に任せるのが一番だからです。そのため申請に関する注文や支払いは、弊社でご紹介した代行会社と直接進めていただくことになります」(佐藤氏)。
初期費用をゼロにすることも可能
さらに設備投資ゼロで自家消費を実施するやり方もある。
それがPPA(電力販売契約)モデルと呼ばれる方法だ。
発電事業者が、需要家による施設の屋根に自家消費設備を無償で設置する。設置後の運用や保守も発電事業者が手がける。
その代わりに需要家は、設備を設置した屋根を貸し出すことになるほか、毎月の電気料金を発電事業者に支払う。
「初期費用がかからないため、コストを抑えて省エネを始めたい企業様に向いています。ただし10~15年の間、他社に対して屋根を貸し出すことになるため、その期間内で引っ越しの計画がある、もしくはそもそも他社に屋根を貸し出すことに抵抗のある企業様には向いていません」(佐藤氏)。
おわりに
前回の記事も含め、自家消費を検討する上で必要な基礎知識を佐藤氏に聞いてきた。
ただ提案されたシステムの技術的な要素を需要家企業が正確に比較・検討することは難しいため、提示された費用対効果などの情報は、ある程度信頼して受け取るしかない、という実状もある。
そうした中で、企業はどのような事業者を選ぶべきだろうか?
「一言で言ってしまえば本当のプロに全てお願いすることです。自家消費は従来の太陽光事業とは似て非なるものです。顧客企業の電力デマンドの分析や、既存の負荷(空調や機械、その他の電力消費機器)を考慮できないと、費用対効果の計算や検討ポイントの共有を正確に実施できません」と佐藤氏は話す。
しかし現状では自家消費の知見に欠ける事業者も少なくないという。
「太陽光業界は、FITによる売電事業が終息していることで、どの事業者も自家消費の事業にシフトしています。そのため正しい知見を持たないまま、売電事業と同じ感覚で自家消費の仕事を受ける企業が増え、質の低い自家消費サービスを購入してしまう顧客が増えるのではと懸念しています」(佐藤氏)。
自家消費の知見がある事業者を選ぶにはどうすべきか?
「有名大手に頼むのは一つの手です。ただコストは必ず上がります。コストを抑えた上で知見のある企業に頼むには、弊社のような太陽光パネルメーカーなど、太陽光発電のプロを選ぶことが重要です。もしくは販売施工店であれば、太陽光事業以外に電気工事などの事業を行っている電気のプロを選択することが、正しい自家消費サービスを受けるコツになります」(佐藤氏)。
企業にとってますます欠かせない手段になると予想される自家消費。基本的な知識を理解した上で、パートナーとして信頼できる事業者と取り組みたいところだ。
※アップソーラーが運営する太陽光販売サイト「ソーラーデポ」へ遷移します。
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