省エネにリソースを割く大企業でも受賞が難しいといわれる省エネ大賞。その事例部門を2015年度に受賞した中小企業が、群馬県富岡市の株式会社 栄光製作所です。
1984年設立で、基板の表面実装やアッセンブリー、組み立て、検査まで一気通貫で手掛ける同社。
2010年7月のデマンド値が106kWだったが、2013年以降は売上を伸ばしつつも3割も削減することに成功。しかも単に月次最大電力を抑えただけでなく、毎月の推移がほぼ変動なく見事に平準化されています。
「契約電力のグラフでこんな形は見たことがない」と電力供給会社のスタッフが驚く結果になりました。
この時はスマートメーター設置を含む若干の設備投資はしつつも、成果につながった要因は個々の社員も含めた地道な取り組みが大きいといいます。
当初はトップダウンで一方的に始まった省エネ・節電施策も、現在ではそれぞれの社員が積極的かつ意識的に取り組むまでに至っているそう。
「最初は社長の指示でやっている状態だったが、目に見えて結果が良くなった時に喜びに変わった。省エネが逆に面白くなってきた」と話すのは、栄光製作所の松本 香奈さん(エコリーダー)。
同社は、省エネや節電に向けた意識付けや能力開発を最も重視する一方で、電力データを含む情報の管理・共有体制を徹底することで、日常業務と削減成果との関連性を示そうとしています。
「ドアの開け閉めといった小さな取り組みですら、最終的な成果に紐づいていることを社員に実感してもらいたい」と、栄光製作所の勅使河原 覚さん(代表取締役)は語ります。
大きな設備投資に頼らない省エネ・節電の取り組みとは何か?栄光製作所の勅使河原社長と社員の方々に話を聞きました。
もちろん最初から省エネに関する知見や社内体制があったわけではないといいます。
バブルの崩壊や生産拠点の空洞化などで倒産の危機も味わった中で、「出費をいかに減らすか?」という課題感を持ったことが取り組みを始めたきっかけ。大きな固定費として人件費と電気代がのしかかる中で、大事な人材のための費用は残しつつ、電気代を削減していく方針を固めました。
「何をどうしたら良いか分からない状態からのスタートという意味では、他の中小企業と同じ。まずはできるところから徹底した。開けたドアは必ず閉める。不必要な電気は消すといった当たり前のことからです」(勅使河原 社長)。
こうした基本的な動作の重要性は、省エネが社内に根付いた今でも変わらないといいます。
同社の長谷川 昌彦さん(経営企画室 室長)はこう話します。
「ドアの開け閉めに気をつけている企業は他にもあるが、社員全員で、しかも削減成果との関連を意識して取り組んでいるケースはあまりない。小さな動作でもひとつずつ見直すことで成果に繋げる。弊社は日々こうしたことをしつこくやり続けています」。
社長付きの小金澤 郁子さんはこう続けます。
「新しく入った社員の誰かがドアを閉め忘れても、代わりに閉めてあげるといったことはせず、自分自身で動いて閉めてもらっています。言われるほうは時に嫌かもしれませんが、できるまで言い続けます」。
「うちは設備による自動化の投資はできない。だから人でやるしかない。ただ仮にどんなに良い省エネ設備を入れたとしても、ドアの開け閉めすら徹底できない社内環境では、性能を活かしきれないのではないでしょうか」と勅使河原 社長は話します。
長年にわたって社員の意識や取り組みレベルが高い水準に保たれていた中で、約10年前にスマートメーターを導入。電力を見える化しながら改めて電源管理の重要性を徹底したことが、大きな改善要因の一つだといいます。
栄光製作所の社内作業風景
しかし単に省エネの重要性を口で言うだけでは、個々の社員が自発的に動く状態にするまでには難しそうです。
一方で小金澤さんは、15年以上前に社長主導で節電施策が始まった時をこう振り返ります。
「社長は始めたことを途中でやめる人でないことを分かっていたので、もうやるしかないという気持ちになりました。また(その後)節電関連の数値が目に見えて良くなっていったので、取り組みはムダではないのだと身に染みて分かってきました」。
「経営者然とするのではなく、自分が率先して社員にリーダーシップを示していくことが大事。たまたま弊社がそういう規模だったこともありますが」(勅使河原 社長)。
また自らの姿勢について「自分がやるしかないという気概の中小企業の社長は多いかもしれません。ただある種そういう想いがないと中々やり続けられないということもあると思います」と話しています。
一方でこうも強調しました。「でも社員の長所を見逃しては損です。その人さえも気づいていない能力がある人がたくさんいますから」。
入社後10年くらいまでの時期は、「自分自身で仕事をまわすのだ」という心持ちが強かったといいます。若い時分、社内の人々に認められるためにそういった気概が必要だったこともあります。しかしある時ハードワークで足腰が立たなくなるほど体調を壊すことに。その際そばにいた社員(しかも普段は仕事ができないとみなされていた男性)に助けられた体験を経て、自分の無力さと社員の真の力を知ることになり、価値観が大きく変わったといいます。
「自分だけでは何もできない。人の能力や役割を見極めるのが経営者にとって一番重要。それが物事を達成するための一番の近道です」。
「ただ社員のレベルが上がっても放っておくとすぐ戻ってしまう。毎日繰り返し言い続けることが大事です」とも言います。
自ら率先して取り組むリーダーシップを見せつつ、社員の長所を見極めて任せる姿勢。この方針をベースに、省エネに必要な情報共有や能力開発を徹底することが、ボトムアップの取り組みにつながっているようです。
松本さんも、入社当初は社長の指示の元で省エネに取り組みつつも、その3年後から「エコリーダー」として省エネ責任者を担当しています。
たとえば各工程の責任者たちが毎日夕方に集まる「電源管理会議」と呼ばれるミーティングがあります。消費電力の大きい機械の稼働が重ならないよう、納期を考慮しつつ生産スケジュールを調整する目的です。松本さんはこうした動きをみつつ、ピークシフトなどを含む具体的な省エネ施策に落とし込んでいきます。
「電源管理を制する者は生産管理を制す」という標語の元に、2つの両立を図っているのです。
各工程のスケジュールが記載されたホワイトボード
さらに翌日の朝礼において、生産スケジュールや前日の電気使用量、当日のピーク電力の予想時刻などを社員たちに共有。この時に共有される情報は、前日に使われた蛍光灯の本数にも及ぶといいます。
「社内にある蛍光灯のうち、何本使ったかという情報を意識付けのために共有しています。たとえば生産高が多い割に使われた蛍光灯の本数が少ないので、まとまって作業できていましたねといったことや、出勤人数が少ないのに本数が多いですね、といったフィードバックをします」(松本さん)
そうしたきめ細かな共有を続けることで、社員の意識が高まり自ら改善策を提案してくれるようにもなるといいます。
「今日は出社人数が少ないから、この辺りで作業すれば本数が少なくて済みますよね、といった声が社員から上がってきたりします。みんなが同じ方向を向いてくれたなとその時は感じました」(松本さん)。
ちなみにこうしたきめ細かい情報管理の対象は、ガソリンや灯油の使用量、社員ごとのスキルなど社内のあらゆるリソースに及びます。複数ある社用車の実燃費を計測した上で、遠出専用の自動車を選別するといった徹底ぶり。しかし闇雲にリソースを削るのではなく、使うところは使う。そのメリハリをつけることが同社のやり方です。
あらゆることを記録に残すことで、自分の行動による影響が具体的に見えるようになり、それが上の空ではない意識的な行動を促し省エネにつながる、という好循環になっているようです。
電力情報の共有によって、社員による省エネへの意識が高まったとしても、実行に移せないと意味がありません。
多品種少量で生産する栄光製作所の場合は、その時々の電力消費状況に応じて柔軟かつ臨機応変に生産するために、1人で複数の工程を手掛ける多能工の作業者をそろえているほか、個々の作業者によるスケジュール管理能力も重視しています。
「限られた時間内でどれだけ生産できるかがカギになります」(小金澤さん)。
「作業者のスケジュールを上司が一方的に管理しているとロスが発生してしまいます」(勅使河原 社長)。
自発的なスケジュール管理を促すために、作業の意図や背景も丁寧に説明して腹落ちさせていくそうです。
さらに省エネで重要視される項目は、ラジオ体操での動き方、来客への挨拶の仕方、駐車場での車の停め方など、一見して省エネとの関連が薄そうな日常の所作にも及びます。
「なぜそんなところに労力を費やすのかと思われるかもしれないが、究極的にはそこが大事だとずっと言ってきました。大小の取り組みそれぞれは点ではなく全てが紐づいています。日常の所作もゆくゆくは省エネにもつながると信じています」(勅使河原 社長)。
高価な設備に頼らない省エネの工夫は、同社の建物のあらゆる箇所で見られます。
たとえばフロア内の窓には遮光カーテンをつけ、温度の上昇を防止。またフロア間には手製のビニールカーテンを設けているほか、2階へ続く階段に手製の引き戸をつけることで、空気の逃げ道をふさいでいます。
さらにフロア内に複数の扇風機を置くことで、空調効率を改善。その際にスモークテスターによって煙を出すことで空気の流れを可視化し実証しています。社員による空調への関心を高めるためです。この取り組みも意識付けに向けた情報共有カルチャーの一つと言えそうです。
現在の同社による契約電力は70kW。その手前の69kWで警告音が鳴る設定で運用しています。
「ここからさらに1kW下げることは大変ですが、日々努力しています」(長谷川さん)。
長谷川さんはさらにこう続けます。
「始めたらやり続けないといけない。大企業の社員は数年でポジションが変わるかもしれないが、中小企業の社員はずっとやり続けなければならない。セミナーでは電気代が大きく下がるところばかり注目されがちですが、1ポイント下げるのを維持するほうが大変です。話のタネにはなりづらいですが、継続は大変なことだと思います」。
現在は地元企業・大学との共同研究によって、省エネ効果だけでなく従業員の働く環境も改善するための対策を実証中という栄光製作所。チャレンジはまだまだ続いていきます。
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