近年激化する気候や環境の変化に対して、温室効果ガスの排出を抑制するためのエネルギーに関する世界的な変革が促されています。それを具現化するための基本的な考え方であるGX(グリーントランスフォーメーション)について、概要と関連用語との違い、日本の基本方針などを解説します。
GXとは温室効果ガスを生じる化石燃料から、CO2を排出しないクリーンなエネルギーへの変革を行うことを示します。世界中の国や地域では、カーボンニュートラルの宣言が相次ぎ、GDPベースで9割以上の表明が見られました。我が国でも排出削減と経済成長を両立させるGX実現に向けて基本方針が公表されています。
※編集部注:【2024年2月14日更新】
GX(GreenTransformation:グリーントランスフォーメーション)の基礎知識
はじめに、国が主導する脱炭素社会の実現に向けた取り組みとなるGX(GreenTransformation)の概要と基礎知識について解説します。
GX(GreenTransformation:グリーントランスフォーメーション)とは?
GX(GreenTransformation)とは、グリーントランスフォーメーションの略語です。温室効果ガスを生じる化石燃料から、CO2を排出しないクリーンなエネルギーへの変革を行うことを示します。化石燃料に依存する現状から脱却するためには、産業のあり方や社会システム全体の変容が必要です。
世界中の国や地域では、カーボンニュートラルの宣言が相次ぎ、GDPベースで9割以上の表明が見られました。これを受けて排出削減と経済成長を両立させるGXに向け、世界規模の投資競争が激化しています。GXの取り組みの成否は、企業や国家の競争力に直結する時代になりました。
更に、2022年のロシアによるウクライナ侵略により、わが国のエネルギー安全保障は大きな衝撃を受けました。このような状況のなか、わが国の強みを最大限活用し、GXを加速させることで、エネルギーの安定供給と脱炭素分野での新たな需要・市場を創出し、日本経済の産業競争力強化と経済成長につなげていく姿勢が示されています。
関連記事:再生可能エネルギーとは? 押さえておきたい基礎知識
参考:経済産業省「知っておきたい経済の基礎知識~GXって何?」
参考:経済産業省「GX実現に向けた基本方針」
カーボンニュートラルとは?
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、その排出量を「実質ゼロに抑える」という概念です。日本語で直訳すると「炭素中立」となります。温室効果ガスは、太陽からの熱を地球に閉じ込め、地球温暖化の原因となる物質です。カーボンニュートラルを目指すことで、地球温暖化を抑制し、持続可能な社会の実現につなげることができます。
カーボンニュートラルの実現には、排出量の削減と吸収量の拡大が必須です。排出量の削減には、再生可能エネルギーの利用拡大や省エネの推進など、さまざまな取り組みが求められます。一方、吸収量の拡大には、森林の保全や植林など自然の力を利用した取り組みも重要です。
日本では、2020年10月に「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という宣言がなされ、カーボンニュートラルを目指す取り組みが促されています。
参考:経済産業省「カーボンニュートラルって何?」
脱炭素とは?
脱炭素とは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にする取り組みです。表記からわかるように、CO2に焦点があてられることが多く見られます。脱炭素とカーボンニュートラルは、よく似た言葉ですが厳密には意味が異なります。
先に説明したように、カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、その排出量を「実質ゼロに抑える」という概念です。一方、脱炭素は温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にすることを目指しています。
これらは、明確な定義の違いが認識されていないため、しばしば同義に扱われる場合も少なくありません。しかし、カーボンニュートラルではCO2以外にもメタン、フロンガス類といった温室効果ガス全般についても言及されます。
カーボンニュートラルおよび脱炭素は、GX実現に至る道のりにおいて、それぞれが基軸となる施策のひとつといえるでしょう。
関連記事:脱炭素とは? 押さえておきたい基礎知識
GX(グリーントランスフォーメーション)が注目されている背景
GXがなぜ注目されるのか、その背景について詳しく解説します。
地球温暖化の進行
環境省によると世界の平均気温は、過去100年で0.74度の上昇が見られ、その傾向は今なお加速し続けています。日本国内の平均気温も100年あたり1.11度(1898~2008年)の割合で上昇しており、2023年の高温状態は記憶に新しいところです。地球温暖化の原因のひとつは、温室効果ガスの排出です。温室効果ガスは、太陽からの熱を地球に閉じ込め、地球温暖化を促進します。
既に、地表および海水の温度上昇が、さまざまな被害となって影響を与えている現在、これ以上の深刻化を回避するためには世界全体で温室効果ガス削減に取り組まなければなりません。気候変動対策の枠組みとなる「パリ協定」に従い、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、かつ1.5度に抑える努力をする」の実現に向けて、あらゆる努力が求められています。
2050年カーボンニュートラル宣言
2050年カーボンニュートラル宣言とは、「2050年までに温室効果ガスの排出量を吸収量との相殺により実質ゼロにする」という宣言です。GXは、経済・社会活動のなかで環境負荷軽減を実施していくための変革を意味する概念ですが、カーボンニュートラルはその実現に向けて不可欠な取り組みとされています。
2050年におけるカーボンニュートラルの達成は、容易な課題ではなく、エネルギー・産業セクターの構造転換と大胆な投資によるイノベーションが必要です。この課題に対処するため、経済産業省を中心に関連省庁と協力し、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。
この戦略では、成長が期待される14の主要分野にわたり、産業政策とエネルギー政策の双方から実行計画を構築しながら国家として高い目標を掲げ、できるだけ具体的な展望を提示しています。さらに、これらの目標の達成を目指す企業の積極的な取り組みを促進するため、あらゆる政策手段を駆使しています。
参考:環境省「カーボンニュートラルとは」
GXが重点投資分野へ
2022年6月、岸田内閣は経済の成長戦略として「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を発表しました。
冒頭の説明にもあったように、世界ではGXにからむ投資競争が激化しており、日本でも経済成長、雇用の拡大、所得向上を目指しながら産業全体の競争力強化を狙う姿勢です。近年のESG投資の拡大を受け、GXやESG推進に役立つ投資商品の充実を推進するために、日本政府では投資家らとの対話の枠組みを2023年内に創設すると表明しています。
「GX実現に向けた基本方針」について
2023年2月10日「GX実現に向けた基本方針」の閣議決定が公表されました。ここでは、ポイントとなる用語や取り組みについて解説します。
GX実行会議
GX実行会議は、内閣総理大臣を議長とし、GXを実行するための必要な施策を検討する会議として2022年7月27日に官邸に設置されました。同日実施された第1回会議では、以下の2つの大きな論点が示されています。
- 脱炭素の取組を進める上での大前提となるエネルギーの安定供給の再構築に向けて必要な方策
- それを前提として、日本の経済・社会、産業構造を脱炭素なものへと転換していくための今後10年間のロードマップ
参考:GX実行会議(第1回)
脱炭素に向けた経済・社会、産業構造変革への今後10年のロードマップ検討に関しては、以下の新たな5つの政策イニシアティブのポイントが確認されています。
- 成長志向型カーボンプライシング構想・ GXリーグの段階的発展・活用
- 規制・支援一体型投資促進策
- 新たな金融手法の活用
- アジア・ゼロエミッション共同体構想など国際展開戦略
- GXを成長に繋げるために必要な横断的視点
参考:経済産業省「GXを実現するための政策イニシアティブの具体化について」
GXリーグ
GXリーグとは、GXに積極的に取り組む企業が、官公庁、金融、大学などとともに、GXに向けた議論や市場創造のための実践を行う場です。2020年10月、日本は2050年までに「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言し、2021年4月には2030年度の新たな温室効果ガス排出削減目標を46%(2013年度比)に設定しました。
これに対応し、カーボンニュートラルへの移行を成長の機会と見なし、「競争力向上を目指すためには、GXを進める企業の役割が重要」とし、2022年にGXリーグを設立。GXリーグが企業の意識・行動変容を通じて新たな市場を創造し、それが生活者である一般市民への波及効果を引き起こし、企業と経済の成長、生活者の幸福、地球環境への貢献が同時に実現されることが期待されています。
NIKKEI GXによると2023年7月時点で、GXリーグは560社超で固まっています。着実な成果へとつながることに関心が寄せられています。
参考:外務省「日本の排出削減目標」
GX経済移行債
GX経済移行債は、国債のひとつで正式名称は「脱炭素成長型経済構造移行債」です。GX推進戦略のために、2023~2032年度までの10年間で総額20兆円が発行されます。エネルギー・原材料の脱炭素化や収益性向上などに有益な技術開発・設備投資を支援するために使われ、2050年度までに化石燃料賦課金・特定事業者負担金から償還される予定です。
再生可能エネルギーなどへの投資に関する国債は、海外でも数多くあります。しかし、CX経済移行債はそうしたものとは異なり、エネルギー開発に関する環境債対象外のものも含まれているのが特徴です。そのため、他国では前例のないタイプの国債として注目されています。
参考:環境省「「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」の閣議決定について」
参考:経済産業省「グリーントランスフォーメーションの推進に向けて」
成長志向型カーボンプライシング構想
成長志向型カーボンプライシング構想は、「先行投資支援」と「排出削減を促進する措置(賦課金と排出量取引制度)」の両輪で、GX投資を加速化するための枠組みです。今後10年間に150兆円超の官民GX投資を実現するため、国が定める総合的な戦略のもとで、GX投資に対して前倒しで取り組めるようなインセンティブを付与する仕組みを構築します。
成長志向型カーボンプライシング構想は、以下の4つの軸で展開されます。
- 「GX経済移行債」(仮称)を活用した先行投資支援(今後10年間に20兆円規模)
- カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ
- 新たな金融手法の活用
- 国際戦略・公正な移行・中小企業などのGX
企業が行うGX(グリーントランスフォーメーション)取り組み事例
GXに取り組む企業では、具体的にどのような施策を行っているのか紹介します。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、2035年までに自社工場でのCO2排出を実質ゼロにする目標を掲げ、国内トップ企業としての姿勢を示しています。これは、従来の50年の目標よりも前倒しでの達成を意味します。この目標達成に向けて、トヨタは自動車の塗装や鋳造工程に新技術を導入し、生産にともなうCO2排出を抑制、再生可能エネルギーの活用も増加させる方針です。
また、単純な仕組みで部品を運搬する「からくり」を導入し、CO2排出軽減のための工夫のひとつと位置づけています。更に、CO2排出削減量を証書化した「クレジット」も購入する計画です。トヨタ自社工場のCO2排出は、車の原材料調達から生産、使用、廃棄まで過程における全体の2%未満です。こうした事情を踏まえ、自動車の電動化や工場内だけでなく供給網全体でのCO2削減を目指しています。
参考:日本経済新聞「トヨタ、35年に自社工場のCO2排出実質ゼロ 目標前倒し」
ENEOS
ENEOSグループは、2022年5月に温室効果ガス排出量に関するカーボンニュートラル計画を公表しています。このなかで、2040年度までに排出量実質ゼロを実現することを目指すとともに、2050年度のカーボンニュートラル社会実現に貢献するための行動を示しています。
具体的には、自社の温室効果ガス排出削減として、「(需要に応じた)適正な原油処理」「製造・事業の効率化(省エネ・燃料切り替え・再エネ活用など)」「カーボンクレジットの活用」「CCS(CO2の回収・貯留)」など。社会の温室効果ガス排出削減への貢献としては、「エネルギートランジションの推進(水素・カーボンニュートラル燃料・再生可能エネルギーなど)」「サーキュラーエコノミーの推進(リサイクル・シェアリングなど)」などに取り組んでいます。
参考:ENEOS「カーボンニュートラル基本計画」
東京電力
東京電力5社(※)では、カーボンニュートラルを軸としたビジネスモデルへ大胆に変革する姿勢として以下の目標を表明しています。
- 2030年度目標:販売電力由来のCO2排出量を2013年度比で2030年度に50%削減
- 2050年目標:2050年におけるエネルギー供給由来のCO2排出実質ゼロ
各施策を具体化するにあたり、以下の3つの大きな観点から取り組みを進めていくことが示されています。
- 社会:電化の促進、CO2ゼロメニュー充実、EV・充電NW普及
- 系統:配電網の分散化、系統利用の最適化、基幹傾向の広域化
- 供給:ゼロエミッションの電源の開発(2030年度:50%削減、2050年:実質ゼロ)
※東京電力ホールディングス株式会社、東京電力フュエル&パワー株式会社、東京電力パワーグリッド株式会社、東京電力エナジーパートナー株式会社、東京電力リニューアブルパワー株式会社の5社
GX(グリーントランスフォーメーション)推進で活用できる補助金
GX推進にあたり活用できる補助金を紹介します。
事業再構築補助金(グリーン成長枠)
事業再構築補助金は、コロナウイルス感染症などの社会的な影響を考慮し、中小企業などの新たな挑戦を支援する補助金です。グリーン成長枠では、温暖化への対応を成長の機会ととらえ、課題解決に向けた取り組みを行う中小企業などの事業再構築を支援します。
成長が期待される14の重点分野には、洋上風力・太陽光・地熱、水素・燃料アンモニア、次世代熱エネルギーといったGXにかかわる選定項目があります。グリーン成長枠には、「エントリー」と「スタンダード」の2つの枠があり、付加価値額、グリーン成長要件などが異なります。
参考:補助金ポータル「事業再構築補助金 第10回公募 【グリーン成長枠】の対象者・要件等を解説」
ものづくり補助金(グリーン枠)
ものづくり補助金の正式名称は、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」です。中小企業・小規模事業者などが革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資などを支援するための制度として設立されました。
そのなかでも、グリーン枠は温室効果ガス排出削減に関連する製品・サービス開発や事業展開、設備投資などを対象としています。
参考:ものづくり補助金総合サイト
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