※編集部注:【2023年10月6日更新】
契約している小売電気事業者が突然倒産、もしくは撤退をしたら、電力供給はどうなるのでしょうか。今回は、万一のときに電気のセーフティネットとして機能する、「最終保障供給」について解説していきます。
まずは、「最終保障供給」という制度について説明します。
最終保障供給は、高圧や特別高圧の需要家が対象です。
最終保障供給とは、小売電気事業者が急に撤退した場合などに、空白期間なく電気を供給する制度です。これは、事業者の倒産やその他の不測の事態において、電力供給が途絶えてしまい、顧客側が不利益を被ることがないよう保護する目的で設けられています。
最終保障供給が注目されている背景の一つは、電力自由化によってうまれた「新電力」と呼ばれる小売電気事業者です。東京電力エナジーパートナーや関西電力など、発電から小売までを行う旧一般電気事業者とは異なり、新電力の事業者は厳しい市場競争や高騰などの影響を強く受け、いくつかの新電力は倒産に至りました。
万一、小売電気事業者が経営破たんした場合は、電力供給ができなくなり、契約している顧客は電気を使用できなくなるリスクがあります。電力は、現代社会において最重要なインフラといっても過言ではありません。電力自由化により、新電力が提供するさまざまな料金プランによって、事業やニーズにマッチした料金体系を選択できるようになったことは大きなメリットです。
しかし、既存の旧一般電気事業者よりも供給リスクが高い点は、新電力のデメリットといえるでしょう。そのため、新電力などが適切な電力供給をできなくなった場合、電気事業法の定めるところにより、一般送配電事業者は必要に応じて最終保障供給を行うことが義務付けられています。
一般送配電事業者とは、電気事業法で定められた一般送配電事業を行うことを、経済産業大臣から許可された事業者です。送電や配電用の設備を自社で維持し、託送供給や発電量調整供給といった事業を行います。旧一般電気事業者である10社の電力会社の送配電部門が、この事業を担っています。
顧客側は、最終保障供給によって、電力供給停止による事業への影響を避けられます。
補足:旧一般電気事業者とは、北海道電力・東北電力・東京電力・中部電力・北陸電力・関西電力・四国電力・中国電力・九州電力・沖縄電力をいいます。
最終保障供給の詳しい内容は、最終保障供給約款に記載されています。最終保障供給約款には、電気小売事業者が何らかの理由で電力供給ができなくなった場合の措置が記されます。最終的に、供給義務を負う旧一般電気事業者が、その際の料金をはじめとした条件に関する規定を明記し、経済産業大臣に届け出ることが必要です。
なお、電気の供給約款には、最終保障供給約款の他に以下のようなものがあります。
「特定小売供給約款」とは、電気の供給を行うにあたり、供給の種別、適用区域、電気料金など、各種の供給条件を定めた約款です。
選択約款とは、「特定小売供給約款」に記載された以外のプランを希望した契約者のための約款です。「時間帯別電灯」「季節別・時間帯別電力」「深夜電力」などの供給プランが該当します。電気小売事業者が届け出を行い、約款によって示すことで利用者側の利便性を図ることができます。
託送供給等約款とは、新電力の事業者が一般電気事業者の送配電設備を利用する場合の供給条件を定めるものです。新電力の事業者は、市場取引または発電会社から電気を購入しますが、送電については大手電気会社の設備を利用します。そのとき、託送料金などを約款に示し、経済産業大臣による認可を得たのが託送供給等約款です。
現状、最終保障供給は、高圧や特別高圧の需要家向けに整備された制度のため、一般家庭のような低圧に関しては対象外です。しかし、2016年以降、すでに一般家庭向けの小売電力も自由化されているため、高圧と同様に供給されなくなるリスクはあります。
一般家庭向けの小売り電力において、最終保障供給のキーワードとなるのが「経過措置料金」。経過措置料金とは、電力会社同士の競争が少ない地域で当該住民に不利益が起こらないよう、従来からある「総括原価方式」で設定されている料金プラン……「従量電灯」などをそのまま残すことが義務付けられたものです。
この経過措置料金が存続する間は、旧一般電気事業者による供給がセーフティネットとなり、最終保障供給の役割を担っているといえます。
電力自由化により、各家庭でも生活スタイルに合った電力会社を選べるようになりました。しかし、実施から日が浅いため、制度が確立されていない部分もあるのです。国は、一般家庭をはじめとする低圧電力の需要家についても、電力供給がストップすることのないよう配慮しています。
経過措置の撤廃後は、低圧も高圧と同様に一般送配電事業者が最終保障供給約款を設定し、最終保障供給を行う見込みです。
ここでは、最終保障供給の料金について詳しく解説します。
2023年4月1日確認時点の東京電力エリアを例に、基本料金や電力量料金を紹介します。
近年、東京電力および多くの地旧一般電気事業者にて、最終保障供給の料金改定が進んでいます。2022年夏には卸電力市場に価格が反映されることが決まり、同年11月の電気料金請求分から、市場価格の高騰時に法人需要家が負担する金額が増える設計になりました(後述)。
加えて東京電力管内では、同小売が2022年9月20日に発表した標準料金メニューの料金単価および燃料費調整制度の変更に合わせて、2023年4月1日から最終保障供給も料金体系が見直しされました。こうした変更は、東京電力管内以外のエリアでも検討が進んでいると思われます。
東京電力エリアの最終保障供給では、以下の4つの契約種別があります。
ここでは、2023年4月1日から見直された最終保障供給の料金体系について、最終保障電力Aの料金を例にして紹介します。
・2023年4月1日からの1ヵ月あたりの基本料金(契約電力1kWにつき)
料金メニュー | 単価 |
標準電圧6,000ボルトで供給を受ける場合 | 2,177円24銭 |
標準電圧20,000ボルトで供給を受ける場合 | 2,045円87銭 |
標準電圧60,000ボルトで供給を受ける場合 | 1979円87銭 |
・2023年4月1日からの電気の使用量に掛かる料金・従量料金(1kW/hにつき)
料金メニュー | 単価 | |
夏季料金 | その他季料金 | |
標準電圧6,000ボルトで供給を受ける場合 | 26円34銭 | 24円97銭 |
標準電圧20,000ボルトで供給を受ける場合 | 24円33銭 | 23円13銭 |
標準電圧60,000ボルトで供給を受ける場合 | 24円02銭 | 22円85銭 |
東京電力管内では、2024年4月の標準メニューの再開に伴い、今後も最終保障供給の見直しが告知されています。
出典:東京電力パワーグリッド株式会社「電気最終保障供給約款」の見直しに関するお知らせ
先述の料金体系に加えて、全国のエリアで2022年9月に、卸電力市場の価格が上乗せされるようになりました。上図は値上げ直前期に試算した東京電力管内の法人需要家様の実際のお見積りです(市場の価格に左右されるため、時期やエリアにより変化が出ます)。
補足:最終保障供給の値上げについて、詳しくは「法人の電気料金を比較、適切な見直し方法を解説」をご覧ください。
近年、新電力市場では価格競争が続いています。さらにコロナ禍以降のエネルギー需要のひっ迫による電力市場価格の高騰や、ウクライナ侵攻による原油や石炭、液化天然ガスなどの燃料価格の高騰、急速な円安の影響など、電力業界全体にとっての厳しい状況が、新電力の契約停止、撤退、倒産、廃業を招いています。
新電力の倒産などで契約継続が困難となり、新たな契約先を見つけられない企業は「電力難民」と呼ばれています。この「電力難民」の増加によって、旧一般電気事業者等から供給を受ける企業数(最終保障供給契約件数)は、ピーク時の2022年10月では4万5871件でしたが、2023年6月では62.0%減の1万7414件となりました。
出典:経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会「令和5年6月1日時点における最終保障供給契約件数を公表いたしました」
最終保障供給の申し込みについては、管轄の配電事業所へ問い合わせて手続きを行うことが必要です。電力需要場所の確認や、供給に関しての条件、契約種別および料金について合意が得られれば、電気最終保障供給約款によって契約内容を定めます。
繰り返しになりますが、最終保障供給制度は電力の安定供給と需要家保護を目的に施行された制度です。そのため、すべての需要家が公正に電力供給を受けられることを目指すと同時に、あくまで緊急性の高い場合の料金設定とされています。また、需要家が常時依存をしないように、必要最低限の料金メニューを基本としている点には注意が必要です。
各エリアの最終保障供給のお申込み先やお問合せ先は、経済産業省のニュースリリース(下記)にまとまっております。
「特別高圧・高圧での電気の供給先が見つからない需要家の皆様へ 契約先に関するご案内」
また、最終保障供給を行う各地域の送配電事業者の公式サイトは下記になります。
最終保障供給に契約中、あるいは契約予定の法人の方は今後の値上げリスク含め、押さえておくべき注意点がいくつかございます。
補足:詳しくは「最終保障供給約款の注意点、各社値上げ情報のまとめ」をご覧ください。
エネチェンジBizでは電力会社の一括比較サービスを提供しています。直近のトレンドとして、電力会社の新規受付停止や事業撤退、値上げが続き、多くの法人需要家が最終保障供給と市場連動型プランのどちらを契約すべきか迷われています。
2022年9月に、最終保障供給は全国エリアで値上げが行われ、市場価格を上乗せされました。また市場価格が1円等に下落した場合でも、各エリアの標準料金プランの従量料金単価が下限値となり、市場価格が安くなった場合のメリットを享受できない設計になりました。
値上げされた最終保障の契約を続けるべきか、各社の市場連動型プランに移行するか。下記では市場連動型プランのメリットやデメリット、提供中の電力会社をご紹介しているので参考にしてください。
補足:「法人向けの市場連動型プランとは? 従来メニューとの違い、提供中の電力会社一覧、メリットと注意点まとめ」
制度変更を受けて値上げした最終保障供給より、割安になる市場連動型プランを複数の電力会社と始めました。料金メニューやリスクもご説明できますので、まずはお気軽に一括比較・お見積もりください。