東京都は、全国の自治体の中でも特に気候変動対策が盛んな地域だ。
大規模事業所や中小規模事業所、家庭など、それぞれの部門ごとに2050年のゼロエミッション東京の実現に向けて対策を進めている。
法人向けの対策としては、省エネ法の対象から外れる中小規模の施設を念頭に置いた「地球温暖化対策報告書制度」や、省エネ法の対象となる大規模事業所向けの「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」(キャップ&トレード制度)が主な取り組みだ。
キャップ&トレード制度について
今回紹介する後者のキャップ&トレード制度が始まったのは2010年。
都内の大規模事業所(年間エネルギー使用量1,500kL以上)に対して一定の削減目標(キャップ)を義務付ける制度で、自社努力による削減分だけでなく、事業所間での排出枠の売買(トレード)によって達成することも可能だ。
対象となる事業所数は1,200ほどになる。
「世界のキャップ&トレード制度の中でも、東京都の取り組みはユニークです」と話すのは、東京都環境局の千田 敏氏(地球環境エネルギー部総量削減課長)。
ヨーロッパなどで見られる一般的なキャップ&トレード制度は、鉄鋼や化学工場など重厚長大産業を対象としているのに対して、東京都による同制度の主な対象はオフィスビルなどの建物だ。
これはCO2排出量の約7割が建物由来という東京都の特徴を念頭に置いたため。
実は東京都は同制度を始める2010年以前にも、こうしたCO2削減のための制度を設けていた。
「ただあくまで事業所の自主性に任せていたため、中々成果につながりませんでした。しかし世界的にも環境の取り組みが盛り上がる中で、我々が日本で先鞭をつける意味でも、義務化による大幅削減に向けて条例改正に踏み切りました」(千田氏)。
東京都環境局の千田 敏氏
テナントを抱えるビルオーナーが対象事業者に多くいることを踏まえて、ビルオーナーによる省エネ対策への協力を全テナントに義務付けるなど、都内の事業所の実態に即した仕組みも導入している。
事業所によるCO2削減状況は?
2010年の制度開始以来、対象事業所によるCO2排出量は順調に減っているようだ。
第1期(2010~14年度)の削減義務率(基準年度比)が8%(または6%)だったのに対して、実際の削減率は25%に上る。
これは次の第2期(2015~19年度)の削減義務率(17%または15%)もクリアできるペースだ。
対象事業所の総CO2排出量の推移(出典:東京都の報道発表資料より)
「キャップ&トレード制度導入以降は、現場レベルだけでなく経営層での関心が高まっているという調査結果が出ています。また東日本大震災の影響で省エネに取り組まざるを得なかったという背景もあり、リバウンドすることなく継続的に削減が進んでいます」(千田氏)。
第2計画期間においては、高効率機器への更新や運用改善などを中心として、これまで自社の削減施策のみで目標を達成できる見込みの事業所は約8割。残りの約2割は他の事業所からのクレジット購入などによって対応していく状況だという。
目標達成手段の一覧(出典:第3計画期間に適用する改正事項等説明資料)
省エネによる削減施策一覧(出典:制度概要資料より)
事業所が活用できるクレジットの種類(出典:制度概要資料より)
2020年度からは再エネ化も重視
これまでの事業所による削減目標は、主に設備更新と運用改善を中心とした省エネによって達成されてきたが、本年度から始まる第3期(2020~24年度)では再エネ施策の役割がより強化される。
「省エネだけによる排出量削減にも限界があるため、低炭素電力の導入による再エネ化も後押していく必要があると考えています」(千田氏)。
単にエネルギー使用量を削減するだけでなく、使用エネルギーの再エネ化も含めた「ゼロエミッション事業所」の重要性を強調し始めた形だ。
「ゼロエミッション事業所」のイメージ(出典:第3計画期間に適用する改正事項等説明資料)
その一環として、第3期からはCO2排出係数が低い電力プランの契約を促す動きをより強めており、2020年度は12の電力会社が認定事業者として認められている。小売電気事業者としてのCO2排出係数が0.37t-CO2/千kWh以下であることが条件だ。
これらの電力事業者が提供する電力プランと契約することで、CO2削減相当とみなされるという仕組みになる。
非化石証書などによって「環境価値」を付与された電力も対象に入る。
削減相当としての換算には、CO2排出係数の低さだけでなく、再エネ電源比率の高さも考慮される。調達する電力の再エネ電源比率が30%以上である場合は、さらに割増して削減量に換算できるのだ。
低炭素電力の選択の仕組み(出典:第3計画期間に適用する改正事項等説明資料)
再エネ電力、事業所の検討状況
事業所による再エネ電力プランの検討状況はどうなっているのか?2019年夏に都が対象事業所に対して実施したアンケートがある。
再エネ電力プランや設備への関心を聞いた設問では、23%(①②)がすでに何らかの取り組みを実施中。関心があり取り組み検討中という企業の割合は54%(③④)という結果だった。
再エネ施策の実施・検討状況(出典:再生可能エネルギー(電気)の利用に関するアンケート)
またすでに取り組んでいる、もしくは関心がある企業に対して理由を尋ねた設問(複数回答)では、「CO2排出量の報告値を下げるため」が最多の75%。次いで「気候変動対策やSDGsに対応するため」(45%)などとなった。
取り組み・検討理由(出典:再生可能エネルギー(電気)の利用に関するアンケート)
さらに再エネ電力プランとの契約について気になる点としては、「コストがどのように変わるか」(73%)が最も多く、次いで再エネメニューを「比較する方法」(46%)、「契約の手続き期間や、手間について」(32%)などとなった。
取り組み・検討理由(出典:再生可能エネルギー(電気)の利用に関するアンケート)
情報提供でレポート作成支援も
「毎年提出していただく地球温暖化対策計画書は、CO2排出量だけではなく削減対策に関する取り組みについても記載する必要があるので、作成の手間もかかります。そうした中で、異動で事業所の施設管理者の方が入れ替わってしまうこともあります」(千田氏)。
そこで東京都では、継続的な計画書作成を支援する目的で、これまで毎年講習会を開いてきたほか、コロナ後ではYouTubeで情報提供するなどしている。
またサイト上では事業所から寄せられる「よくある質問」も掲載されている。
こうした情報を収集した上で、適切に対応していきたいところだ。
補助金一覧シートのご案内
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