農地に太陽光発電設備を設置するソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)へのニーズが、ますます増えている。
農家が副収入として売電するという当初のスキームに加え、最近では大企業がESG投資対策の一環として取り組む事例も増えてきた。
さらに2020年度に予定されるFIT法の見直しも、ソーラーシェアリングのすそ野拡大を後押ししている。
同法の見直しによって、低圧の太陽光発電設備でも、発電したFIT電気を全量売電できなくなる。代わりに一定の自家消費が義務付けられるため、電力消費を伴う何らかの取り組みも発電と共に必要になる。
その際に、太陽光発電と農業を両立するソーラーシェアリングが有力な選択肢の一つになるとみられているのだ。
ただソーラーシェアリング事業を成立させるためには、クリアすべき問題点も多い。
農業を安定的に運営する仕組みづくりや、農業と発電を両立させる設計・施工、資金調達など多岐にわたる課題を検討する必要がある。
「農地によって作物の向き不向きが当然ありますし、それを踏まえてどのような種類の太陽光パネルにするのか、といったインフラ面の対応も変わってきます。ソーラーシェアリングに興味があるもののやり方が分からない、といったフェーズからでもお声がけください」と株式会社横浜環境デザインの赤井智彦氏(総合企画部 部長執行役員)は話す。
横浜環境デザインの赤井智彦氏(総合企画部 部長執行役員)
一気通貫もしくは施工のみなど、柔軟な支援が可能に
横浜環境デザインは、太陽光発電システムの設計と施工、販売を20年以上にわたって専業で手がけている。
これまで全国各地で太陽光発電システムのEPC(設計・資材調達・建設工事)業務や、設置後のO&M(点検・メンテナンス)を手がけてきた同社だが、そうした知見を元にソーラーシェアリングの支援も積極的に展開しているのだ。
すでに千葉県の匝瑳(そうさ)市でのソーラーシェアリング事業において施工を支援した実績も持つ。
農地の荒廃が問題になっていた匝瑳市において、千葉エコ・エネルギー株式会社や市民エネルギーちば株式会社など地場のパートナー企業らと手がけたのだ。
「太陽光発電の発電事業も含めた一気通貫での支援、もしくは施工のみなど、その時々で柔軟なかかわり方が可能です」(赤井氏)。
匝瑳市でのソーラーシェアリングの様子(出典:横浜環境デザインのサイトより)
発電と農業の両立を意識した設計
ソーラーシェアリングに求められる設備の耐久性や要件などは、全国的に取り組みが始まった当初と比べて上がっている。
「当初は農林水産省の通達で、撤去しやすい架台が重視されていたため、単管パイプ式の架台が中心でした。ただそれでは台風で被害を受けることもあるため、現在ではアルミ架台にした上で、基礎部分には浮沈防止ベースを入れるなどして耐久性を強めています」(赤井氏)。
横浜環境デザインによるアルミ架台は、地上設置型太陽光発電システムの設計基準(JIS C 8955)に準拠したつくりになっているほか、トラクターなどでの農作業のしやすさも考慮するなど、発電と農業の両立が意識された設計が特長だ。
一方で耐久性が高まった分、修理やメンテナンスの知見もより必要になってくる。
「農家は器用な方も多いので、シンプルな単管式の架台であれば、ちょっとした修理を自分で済ます、といったことも可能でした。ただより複雑な仕組みで高さが約3メートルもあるアルミ架台になると、O&Mを依頼する必要が出てきます」(赤井氏)。
横浜環境デザインでは、IVカーブトレーサーやホットスポットチェッカーなどの専用機器を用いた検査を、子会社のアドソーラーワークス株式会社を通じて実施している。
農地転用の再申請、これまでに不許可はなく
ソーラーシェアリングでは、農地を耕作以外の目的で活用することになるため、農地転用の許可を得る必要があるが、取り組み促進に向けて農林水産省が規制緩和を進めた部分もある。すでによく知られているが、ソーラーシェアリングを実施する農地の一時転用期間の延長だ。
従来は原則3年ごとに農地転用の延長申請をする必要があったが、2018年からは一定の条件を満たす場合に限って10年に延長できる。
一時転用期間が長くなることで、再申請の手間が少なくなるのは当然だが、何よりも取り組みのスパンが長くなることで銀行による融資がより下りやすくなるといったメリットがある。
こうした再申請手続きの手間や再認可の下りやすさなどはどうなのだろうか?赤井氏によると、同社がこれまでかかわった案件で、再申請が許可されなかったことはないという。
「10年区切りの再申請は当然まだ経験していませんが、3年に1回のほうの手続きについては実施済みです。もちろん細かい内容は自治体によって違うはずですが、弊社がこれまで経験した中ではそこまで難しい作業ではありませんでした。匝瑳市では、作物収量の報告など簡易な説明で済んでいます。また発電設備が申請時から変更されていないかといった検査もありますが、よほどのことがない限り設備を変えたりはしません。毎年しっかり作物を作っていれば、許可が消される可能性は低いと思います」(赤井氏)。
ソーラーシェアリングの費用感や補助金状況
またソーラーシェアリングのための太陽光発電設備の費用感はどれくらいなのだろうか。
赤井氏によると、もちろん場合によるが、大まかな費用感としては1kWあたり15万円ほどだという。仮に1kWあたり15万円で300kWの発電設備であれば4500万円ほどになる計算だ。架台が高い分だけ鋼材費も高く、また工事費も上がってしまうため、通常より割高になるという。
現時点でソーラーシェアリングそのものへの補助金は存在しないものの(2020年4月現在)、別の手段の補助金と組み合わせることも選択肢としてあり得るという。
「たとえばソーラーシェアリングと同時に自家消費することで、環境省などによる自家消費向けの補助金を受ける方法もあります。また神奈川県であれば、小売電気事業者が県内に発電所を作る際に補助金が出るため、弊社が小売事業者として太陽光発電所を作るという枠組みで補助金を申請する、という構想も考えています」(赤井氏)。
また設置後のO&Mについては、グループ会社のアドラーソーラーワークス(ASW)が受託しおこなうケースが多いという。どこまで精緻にやるかで費用は変わってくるが、仮に駆けつけ対応と年に1回の点検を実施すると、300kWの設備であれば年間120万円からが相場だそうだ。ASWでは、ソーラーシェアリングのO&Mも経験豊富だといい、全国に40MW、10か所程度の発電所を管理しているという。
プロジェクトの座組も重要
ソーラーシェアリング検討者にとって、こうした費用面は真っ先に気になるところだが、プロジェクトを進める座組も重要だという。
「利害関係が異なる参加者が増えると、その分だけ細かい調整も必要になってきます。たとえば営農者は作農に注力する一方で、地主はより多くの収益をあげることに関心がある、といった構図になると、それぞれのソーラーシェアリングに対する期待も変わってきます。さらに知識レベルも違う中で、話をまとめていくので一筋縄ではいかないこともあります」(赤井氏)。
ソーラーシェアリングに関するプロジェクトが発生する際は、まずこうした関係者の座組に加えて、横浜環境デザインに期待されるかかわり方(発電事業者やEPC事業者としてなど)などが、進め方を決めるにあたって重要になるという。
再エネ比率を上げるだけではない、ソーラーシェアリングの意義
現状で横浜環境デザインへの問い合わせは、ESG投資対策を目的とした大企業が比較的多いという。単に再エネ比率を上げるだけでなく、より社会的意義のあるやり方で達成したいといったニーズだ。
ただ今後はソーラーシェアリングの普及に伴いすそ野がより拡大することが予想される。関連情報をキャッチアップする負担もあるため、適切な知識を提供する段階から支援していきたいと赤井氏は話す。
また最後にソーラーシェアリングを普及させる意義について、赤井氏はこう語る。
「日本で再生可能エネルギーを普及させる上で、最もポテンシャルが高いのが太陽光発電です。しかしただメガソーラーを増やすだけでは、森林破壊など別の問題が出てきてしまいます。そこでソーラーシェアリングという形で日本全国にある農地を有効活用できると、よりうまく再エネ普及と両立できるようになるはずです」。
今後は特に同社の地元の神奈川県で、ソーラーシェアリングを普及させる目標も掲げている。