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「蓄電池一家に一台」時代に向けた戦略、自家消費時代の太陽光・蓄電池の活用方法

 

セラミックスコンデンサーなどの電子部品メーカーで知られる株式会社村田製作所は20179月、ソニーの二次電池部門をグループに迎え入れて蓄電池事業を開始。太陽光ビジネス参入時の強力な武器になった。

2021年春には、天気予報や気象警報に連動して効率的な運用を図る新たなサービスを盛り込み、より多くの屋根パターンに対応できる新しい家庭用蓄電池システムを発売予定だ。「卒FIT」時代の新たな太陽光・蓄電池マーケットを開拓していく。

「再生エネルギーはやっぱり太陽光」。「夜間電力と昼間電力の料金差は小さくなる」。関西スマートエネルギーWeek 2020セミナーで、同社エナジーシステム販売課シニアマネージャーの豊原秀彦氏が語った言葉だ。その見方や戦略は、「蓄電池、一家に一台」時代の到来を予見させた。

村田製作所の豊原氏

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蓄電池で自家消費率倍増

村田製作所が太陽光ビジネスに参入する際の強みとなったのが、もともと内製していたことで蓄積されていた蓄電池の技術だった。参入にあたって同社は、電気料金が今後も上がるとみていた。

理由の1つが、「太陽光発電促進付加金」が今後も値上がりするとみていたからだ。この付加金は、太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)によって、電力会社が余剰電力の買取に要した費用が電気料金に上乗せされる。また、原発の稼働が少ないことから、「今後も継続的に夜間電力料金を安く維持する理由が見当たらない」として、電気料金本体の値上がり傾向が続くという見通しもあった。

豊原氏は「この数年の普及スピードから見て、結果として風力発電や小水力発電はなかなか進まず、やっぱり太陽光が主力とみなさん実感していると思う。私たちも、太陽光市場が中心となり、これからも伸びていくと思っている」と主張。続けて、「深夜電力と昼間電力との料金差はなくなっていくと私たちは推測しており、太陽光をいかに使っていくかというのがマーケットの主眼になっていく」と説明する。

そのような観点から、村田製作所は「太陽光の自家消費率をいかに高めるか」というソリューションを考えた。

その結果、同社は家庭用蓄電池を小型化。オール電化の家を中心に普及が進む蓄電池について、エコキュートに代表される蓄熱式温水器などと合わせながら、蓄電池でバックアップする経済的な運転を志向した。太陽光発電単体なら自家消費率は30%程度だが、蓄熱式温水器と蓄電池を合わせると自家消費率が6070%にまで高まるという。

自家消費率最大化のためのシステム動作イメージ(出典:村田製作所資料より)

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一定規模の蓄電容量を志向

蓄電池の重要な要素として、「充放電のサイクル回数」がある。

電力需要が高まる割に太陽光発電が得られない朝夕と、正午ごろの電力使用ピーク時に計3回放電し、正午前後以外の日照時間帯に充電するというサイクルだ。豊原氏は「サイクル回数の耐久性が大きな肝になる」と説明する。

同社では蓄電池システムに15年間の保証を付けているため、15年の間に大きく変わる各家庭のライフスタイルの変化にも対応し、蓄電池を手軽に増設できるよう配慮している。

低コスト、そして家庭で安心して使ってもらえるための高い安全性の2つも合わせた課題を「見失わないようにしている」(豊原氏)という。

同社が20196月に発売した蓄電地システムは、横長のエアコン室外機程度の大きさで、重さは75キロ。2階のベランダにも設置できる大きさと重量だ。また、豪雨や猛暑、新型コロナウイルス感染症などがもたらす時代の要請にもあわせ、一定規模の蓄電容量を志向した。

この結果、停電しても蓄電池だけで冷蔵庫30時間、照明24時間、扇風機12時間、4台分のスマートフォン3回フル充電のすべてに対応できるようになっている。「停電時にこれだけ使えれば非常時をしのげる」という考えにもとづく設計だ。

蓄電池によって冷蔵庫30時間、照明24時間、扇風機12時間の充電に対応(出典:村田製作所資料より)

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豊原氏は「私どもの製品は大容量の製品に比べると値段的には安いと思うので、差額分を省エネ家電の購入に回してもらえれば」と話した。

 

安全性と充放電無制限

蓄電池で怖いのは、熱暴走により、温度の制御ができなくなって発火、爆発などを起こす現象だ。

蓄電池は摂氏200度台になると熱暴走の可能性が出てくるため、一般的なリチウムイオン電池を使用、かつ室内に置くなどの環境下にある場合、家でボヤがあると「周囲温度が高まり、熱暴走を始めるリスクがある」(豊原氏)という。

その対応策で役に立ったのが、同社が買収したソニーエナジー・デバイス社の福島・郡山の工場だ。

同工場はバッテリーセルを世界で初めて量産化し、世界で一番データを持っている。このデータも生かして素材までも研究し、「住宅向け蓄電池用リチウムイオン電池の素材としてリン酸鉄が最適」との判断を行ったという。

リン酸鉄はエネルギー密度が低いため、蓄電できる量がコバルト系などに比べて少なくなるが、安全性が高いのが特長。素材研究により、さらに寿命を延ばすことが実現できた。

リチウムイオン二次電池の種類(出典:村田製作所資料より)

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この蓄電池(FORTELION)は、充放電を繰り返すことによるサイクル劣化がほとんどないという。そのため劣化主要因は時間劣化となり、同社では15年間の保証期間中は日々3回の充放電を繰り返しても問題ないと判断。「充放電は実質無制限」という考えのもとで15年間の保証をしている。

村田製作所のFORTELION(出典:村田製作所資料より)

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くぎを刺されても発火・爆発せず

セミナーでは、リン酸鉄系素材の蓄電池(FORTELION)と三元系(NCM)素材の蓄電池にくぎを刺し込んだ実験動画も披露された。

三元系の蓄電池はすぐに火を吹き出した一方で、リン酸鉄系は釘を刺されても電解液が外側に流れ出るだけで発火・爆発しなかった。豊原氏は「三元系は一気に熱暴走温度に上がり、火が吹き出した」とし、「モバイルバッテリーの短絡事故、電子タバコの爆発はこういう状態になっている」と説明した。

同社では蓄電池の事故リスクを局限まで減らす一方で、故障対応についても配慮。設置場所での修理はせず、同種製品との交換によってすぐに蓄電池システムを再稼働できるようにしているという。

 

天気予報や気象警報に連動して効率アップ

豊原氏は、来年131日から始める新機能についても紹介した。

各家庭の電気料金プランと天気の状況に合わせ、充放電を最適に制御できる。つまり、「翌日の天気が悪ければ、値段の安い深夜電力による充電を目いっぱい行う」「翌日が快晴予想なら当日の太陽光発電で昼間のピーク電力に対応させる」といったことが可能になるのだ。

2021年1月に始まる新機能(出典:村田製作所資料より)

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豊原氏は同日から加わる気象警報連動機能についても説明。警報が発令されると備蓄モードに自動的に切り替わり、台風が来て停電リスクが高まる時には満充電となるよう設計されている。

従来の蓄電池は災害発生時に放電しきった状態にならないよう、常時約30%程度の充電率を保っているが、同社はこれを「無駄」と判断。通常は目いっぱい充放電を繰り返しながら、気象警報時だけ対応できるようにした。

気象警報連動機能(出典:村田製作所資料より)

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同日から始まる新サービスには、停電時の放電電力値や使用可能推定残時間をスマートフォンで見られるものもあり、豊原氏は「たとえば冷蔵庫以外のコンセントを抜けば、使用可能時間が伸びていく。このことから、災害対応意識を家の中で高めることもできる」と話した。

これらの機能は20196月から出荷している製品には無償対応。今後、新たな機能が追加されても、15年間の保証期間内であれば、既設の製品にも無償で新機能が利用できるようになるという。

 

サービス一体型のビジネスモデル

豊原氏は「卒FIT」を念頭に、来年3月出荷予定の小型軽量・一体型の蓄電池システムも紹介した。

「卒FIT」とは、余剰電力買取制度(FIT)が始まった200911月から10年が経過し、10年間の固定買取期間が満了するケースを指す。

2019年中に固定買取期間が終わる件数は56万件と膨大なため、「2019年問題」とも言われていた。

ただ同社は、新たな太陽光発電システムへの切り替えはすぐには起こらないと判断。FIT向けシステムで発電した電力を有効活用したい「卒FIT」ユーザーにも使いやすい製品として、新しい蓄電池システムを打ち出した。使いやすさの条件の一つが重量を100キロ未満に抑えること。

100キロ未満だと簡易基礎で設置できるためで、「絶対譲れないターゲット」として製品を開発した。新製品は室外機程度の大きさで、重量は88キロだ。パワコンは5.5kWで、3.5kwhの蓄電池を内装している。また、マイナス20度から放電可能なため、寒冷地にも対応できる。

気象連動機能といった新サービスにも対応しており、豊原氏は「蓄電池とパワコンに加え、サービスも一体にしている。お客様のライフスタイルに合わせた15年間の使用権を販売させていただくというビジネススタイルを志向していきたい。サービスも含めて、ビジネスモデルを組み立てていきたい」と熱を込めた。

一方で、日本の再生可能エネルギー導入目標が2030年に全発電電力量の2224%となっていることにも言及。

「夕方に上昇する電力需要をどう抑えるかがカギになる」として、「そのためにも蓄電池を普及させることが社会的に求められる」と指摘した。

そして「高い買い物なので、15年間安心して使ってもらえる、ユーザーに満足していただけるものを提供していきたい」と決意表明。

セミナーの最後には「科学的管理を実践する」という村田製作所の社是を示し、「きちんとしたロジックで独自のサービスを展開し、社会に貢献していきたい」と意気込みを語った。日本のエネルギー産業は大きな転換点を迎え、蓄電池が大きなカギを握っていると実感させられるセミナーであった。

 

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