金属機構部品メーカーのCHAMPION CORPORATION(大阪府東大阪市)は2018年2月、女性だけが働く工場「YAO-Factory」を大阪府八尾市に完成させました。
「女性が動かす町工場 人手不足補い、働きやすい職場に」と朝日新聞の夕刊に報じられるなど、多くのメディアが取り上げたこの工場はIoTの賜物です。熟練加工者の知識・技術・ノウハウをプログラミングで再現できたこの仕組みは、知識・技術・ノウハウの伝達の手間を大幅に軽減させ、海外や国内遠隔地への工場展開に新たな可能性を広げています。
女性だけが働く工場「YAO-Factory」(同社サイトより)
CHAMPION CORPORATIONはオーダーメイド部品の受託生産を手掛け、切削・研削・放電・熱処理まで社内一貫体制で生産しています。
手掛けるのは多品種小ロットの部品のため、案件は月に6000件に及ぶといいます。IoTを始める前から、省力化、省人化には取り組んできました。2005年にロボットアームを導入し、熟練工がやっていた段取りの工数を削減し、型彫放電加工時間を約35%減らしています。
そんな同社がYAO-Factory成功のキーワードにしているのが、「社風」と「ゴール」、そして「環境」です。
チャレンジに積極的な「社風」
社員がいろんなことをする社風もあり、展示会に出す動画なども全て社内でつくっています。そのことによって、社員にチャレンジ精神がはぐくまれ、個々の社員の可能性を広がるといいます。そうした社風があるため、「省人化」「仕事がなくなる」と受け取られがちなIoTに対しても、社員が協力的になりやすかったというのです。
手段と「ゴール」を混同しない
「一般的にIoTを入れることにばかりフォーカスされ、その先に目がいかないことがよくある」(福田将士管理総務課長)。このように手段と目的が入れ替わるケースは往往にして起こり得ます。こうした事態とならないよう、同社では「省力化、簡素化がゴール」ということを常に意識してきたといいます。
その結果、熟練加工者の知識・技術・ノウハウを引き継ぎながら、省力化、省人化を図り、女性だけでできるYAO-Factoryにつながりました。
CHAMPION CORPORATIONの福田将士管理総務課長
女性が働きやすい「環境」づくり
また成功の3つ目のキーワードである「環境」は、女性が働きやすい、働き方改革にもつながるような環境づくりです。
女性だけの工場なので、勤務時間・曜日をフレキシブルにし、「夕方6時から10時まで働きたい」従業員がいれば、その時間に工場を開けるほど柔軟に対応しています。女性のシルエットに合わせた作業着も取り入れ、そのままコンビニなどに行けるよう見た目にも配慮しました。更衣室や食堂を憩いの場にできるように広くし、企業が作った保育園と提携して、従業員の子供を優先的に入れられるように配慮しています。IoTを導入しても、最後は人。「従業員の働きやすい環境をつくり、働き続けていただくことが大切」との考えが根底にあります。
大きな力仕事も排除
YAO-Factoryの工作機械は、「NC」(数値制御)で動くものがほとんどです。機械を動かすプログラミングを上海工場で作り、USBメモリ経由で機械に流しこみます。あとはスタートボタンを押すと、工作機械が動き、加工している最中は手を加える必要がありません。部品がボールペン1本くらいの大きさのため、女性でも持ち運びに苦労がなく、加工部位に手を入れる必要性もないので、慣れてくると1人で2台動かせるようになるといいます。
できあがった商品は人の手で出し、機械で削り取れない部分だけを削りとります。そこにも精密さが求められますが、「繊細な気遣いや責任感の強さという女性特有の能力」(福田管理総務課長)が発揮され、YAO-Factoryの不良率は低いとのことです。
IoTで作業を簡素化、スタッフ指導の負担減
商品は画像測定器のボタンを押すだけで測定でき、NGなら工作機械に戻すことになりますが、そこもスタートボタンを押せば修正されて出てきます。手を加えるのは、取り出すのと、どうしても機械で削れない部分を削るという作業だけで、ほかはすべて自動化できているのです。
このため、海外展開しても、日本人が長期にわたってローカルスタッフを指導する必要がなく、簡単な指導だけで済みます。国内でも、雇用が不足している地域に工場を出すことも可能になるといいます。福田課長が「もしかしたら、こういうところがゴールかも」と話すのは、「本社のある東大阪の技術者が事務所でコーヒーを飲みながらモニタリングする」というイメージです。
CHAMPION CORPORATIONでは現在、RPA(事務処理を中心にした業務の省力化)とOCR(光学文字認識)を進めています。しかし、AI、5GとIT関連の技術進展が激しく、数年先の状況を予想できない状況のなか、「IoTを一気に進めるとひずみが生まれる」との危惧も持っています。このため、後で組み換えることを想定しながら、部分的にできるところからシステムを構成していく。それが今のスタンスだといいます。
※本記事は、大阪産業創造館主催のイベントを記事化したものです。