人材確保等支援助成金とは、労働環境の改善などに取り組む事業主などを助成する制度。それによって人材の確保や定着を促すことを目的としている。
この助成金には複数のコースがあり、人材確保の促進や研修制度の整備、テレワークの導入促進など多岐にわたる。
新設もしくはすでに廃止されたコースも随時出てくるため、直近の情報を確認する必要もありそうだ。
厚生労働省のサイトによると、以下の9コースがある(2021年6月時点)。
コース名 | 概要 |
1. 雇用管理制度助成コース | 健康づくり制度や研修制度、諸手当等制度などの整備を助成 |
2. 介護福祉機器助成コース | 介護労働者のために介護福祉機器を充実させる取り組みを助成 |
3. 中小企業団体助成コース | 事業主団体が中小企業の人材確保や労働者の職場定着を支援する取り組みを助成 |
4. 人事評価改善等助成コース | 人事評価制度と賃金制度を整備する取り組みを助成 |
5. 雇用管理制度助成コース(建設分野) | 建設業の中小事業主による雇用管理改善の取り組みを助成 |
6. 外国人労働者就労環境整備助成コース | 外国人特有の事情に配慮した就労環境の整備を助成 |
7. テレワークコース | 良質なテレワーク導入によって、離職率の低下を図る取り組みを助成 |
8. 若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野) | 建設業の事業主等が、若年者や女性の入職や定着を図る取り組みを助成 |
9. 作業員宿舎等設置助成コース(建設分野) | 建設業の中小事業主等が、被災三県の作業員宿舎などを賃借する取り組みなどを助成 |
またそれぞれの主な要件や支給額は以下のようになる。
コース名 | 主な要件 | 支給額 |
1. 雇用管理制度助成コース | 雇用管理制度の導入・実施など | 57万円(生産性要件を満たした場合は72万円) |
2. 介護福祉機器助成コース | 介護福祉機器の導入・運用計画の作成・実施など | 助成対象費用の20%(生産性要件を満たした場合は35%) |
3. 中小企業団体助成コース | 雇用管理の改善に向けた計画の策定・実施など | 助成対象費用の3分の2 |
4. 人事評価改善等助成コース | 人事評価制度等の整備・実施など | 80万円 |
5. 雇用管理制度助成コース(建設分野) | 就業規則の変更など雇用改善制度の整備・導入など | 57万円(生産性要件を満たした場合は72万円)(2回目の受給は別額) |
6. 外国人労働者就労環境整備助成コース | 外国人労働者に対する就労環境整備措置の導入など | 助成対象費用の2分の1(生産性要件を満たした場合は3分の2) |
7. テレワークコース | テレワーク実施計画に基づいた取り組みの実施など |
・機器等導入助成:助成対象費用の30% ・目標達成助成:助成対象費用の20%(生産性要件を満たした場合は35%) |
8. 若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野) | 技能向上や雇用改善などに必要な研修や制度整備の実施など | 助成対象費用の5分の3(生産性要件を満たした場合は4分の3)(いずれも中小事業主の場合) |
9. 作業員宿舎等設置助成コース(建設分野) | 作業員宿舎等の確保(被災三県のみ)や建設現場での女性専用設備の整備 |
・作業員宿舎等の設置:助成対象費用の3分の2 ・女性専用作業員施設(助成対象費用の5分の3(生産性要件を満たした場合は4分の3) |
次に、比較的ニーズの高い「雇用管理制度助成コース」を例に、要件や支給までの流れといった詳細をみていこう。
雇用管理制度助成コースの概要
同コースでは、事業主が離職率の低下に取り組んだ場合に、最大72万円が助成される。
労働者全員を対象に、以下5つのうち1つ以上を導入・実施することが条件となる。また実施する制度についての記載を就業規則に加えることも求められる。
- A:研修制度(eラーニングなど含む)
- B:諸手当等制度(退職金制度など)
- C:メンター制度(外部メンター制度含む)
- D:健康づくり制度(肺がん検診など)
- E:短時間正社員制度(保育事業主のみ)
A.研修制度
新たに教育訓練・研修制度を導入することが求められる。支給対象となる研修の例として、新入社員研修や管理職研修、新任担当者研修、マーケティング技能研修などが挙げられている。
受給するには、次の7つの条件すべてを満たす必要がある。
- 労働者の職務遂行に必要な知識・スキル・能力の付与を目的として、カリキュラムや時間などを定めた教育訓練・研修制度であること
- 生産ラインまたは就労の場における通常の生産活動と区別して、業務遂行の過程外で行われる教育訓練等であること(講習時間の管理が可能であれば、通信講座なども対象)
- 1人につき10時間以上(休憩・移動時間等を除く)の教育訓練等であること。そのうち3分の2以上が労働関係法令等により実施が義務付けられていないこと
- 当該時間内における賃金のほか、受講料や交通費等の諸経費を要する場合は、全額事業主が負担すること
- 教育訓練等の期間中の賃金については、通常の労働時の賃金から減額されずに支払われていること。所定労働時間外もしくは休日等に行われる場合は、割増賃金が支払われていること
- 当該制度が実施されるための合理的な条件と事業主の費用負担が、労働協約または就業規則に明示されていること
- 雇用管理制度整備計画期間内に、退職が予定されている者のみを対象としないこと
B.諸手当等制度
通勤手当や転居手当、単身赴任手当、役職手当、資格手当などの諸手当制度の導入が求められる。
受給するには、次の6つの条件すべてを満たす必要がある。
- 労働者に対する制度で、「諸手当等制度」を導入する事業主であること
- 導入した諸手当等制度の対象となる労働者全員の賃金の合計額が低下していないこと
- 当該制度が実施されるための合理的な条件(勤続年数や要件、基準など)が労働協約または就業規則に明示されていること
- 諸手当制度を導入する場合は、基本給を減額するものではないこと。また既存の手当てを廃止して新たな手当を設ける場合は、新設する手当の支給総額が、廃止する手当の支給総額よりも増額していること
- 退職金制度を導入する場合は、事業所を退職する労働者に対して、在職年数等に応じて支給される退職金を積み立てるための制度であって、積立金や掛け金等の費用を全額事業主が負担すること
- 雇用管理制度整備計画期間内に、退職が予定されている者のみを対象としないこと
C.メンター制度
指導・相談役となるメンターが、メンティをサポートする制度。労働者のキャリア上の課題や職場での問題の解決を目的とする。
メンターは社内の人材だけでなく、社外の支援機関や専門家を活用することも可能。
受給するには、次の7つの条件すべてを満たす必要がある。
- 労働者に対するキャリア形成上の課題・問題解決を支援するためのメンタリング措置であること。会社や配属部署における直属上司とは別に、指導・相談役となる先輩(メンター)が後輩(メンティ)をサポートする制度であること
- メンターに対し、メンタリングに関する知識、スキル(コーチング・カウンセリング等)の習得を目的とする講習(民間団体等によるメンター研修など)を受講させること
- 2の講習を受講する際に、メンターに賃金、受講料、交通費を要する場合、全額事業主が負担すること
- メンターとメンティによるメンタリング(面談方式)を実施すること
- メンターとメンティに対して、メンター制度に関する事前説明を行うこと
- 当該制度が実施されるための合理的な条件と事業主の費用負担が、労働協約または就業規則に明示されていること
- 雇用管理制度整備計画期間内に、退職が予定されている者のみを対象としないこと
D.健康づくり制度
法定の健康診断以外で、健康づくりに資する制度の導入が求められる。原則として、すべての労働者を対象とした制度である必要がある(複数の項目の中から、労働者が希望する項目を選択できる形式は可)。
受給するには、次の5つの条件すべてを満たす必要がある。
- 次の項目のいずれか1つ以上を導入する事業主であること(法定の健康診断に加え):胃がん検診・子宮がん検診・肺がん検診・乳がん検診・大腸がん検診・歯周疾患検診・骨粗しょう症検診・腰痛健康診断
- 医療機関への受診等により費用が発生する場合は、半額以上を事業主が負担していること(受診などによる費用の全部を事業主が負担しない場合は、原則対象とならない)
- 事業主が診断結果・所見など必要な情報を受けて、その状況に対応した必要な配慮を行うことを目的とすること
- 当該制度が実施されるための合理的な条件や事業主の費用負担が、労働協約または就業規則に明示されていること
- 雇用管理制度整備計画期間内に、退職が予定されている者のみを対象としないこと
E.短時間正社員制度
既存もしくは新規雇用の労働者を「短時間正社員」として雇用することが求められる。「短時間正社員」とは、無期契約の正規従業員として位置づけられつつも、労働時間が「フルタイム」ではない社員を指す。
受給するには、次の3つの条件すべてを満たす必要がある。
- 事業主が雇用、または新たに雇い入れる労働者を「短時間正社員」とする制度であること
- 当該制度が実施されるための合理的な条件や事業主の費用負担が、労働協約または就業規則に明示されていること
- 雇用管理制度整備計画期間内に、退職が予定されている者のみを対象としないこと
求められる達成目標
上記の取り組みによって、離職率を低下させることが求められる。離職率の目標値は、事業所の従業員規模によって異なる。
従業員規模 | 離職率の引き下げ目標 |
1~9人 | 15ポイント低下 |
10~29人 | 10ポイント低下 |
30~99人 | 7ポイント低下 |
100~299人 | 5ポイント低下 |
300人以上 | 3ポイント低下 |
ちなみに仮に目標値を達成すると離職率が0%を下回る、もしくは新規創業などのため離職率を算出できない場合は、離職率0%が目標となる。
離脱率低下に向けた計画の実施期間は、3ヵ月以上1年以内とされている。
支給までの流れ
1.雇用管理制度計画を作成・提出
提出期間内に計画書を提出。提出先は、本社の所在地を管轄する都道府県労働局となる。
提出期間は、計画開始日の1~6か月前の日の前日までとなる。たとえば計画開始日が2021年12月1日の場合、提出期間は2021年6月1日~10月31日に設定される。
計画書は労働局やハローワークによる認定を受ける必要がある。
2.雇用管理制度の導入・実施
上記で作成し、認定を受けた計画書に基づき、雇用管理制度を導入する。実施内容は労働協約もしくは就業規則に明文化する必要がある。
3.離職率の低下目標を達成
計画実施後12ヵ月間の離職率が、目標値まで低下していれば助成を受けられる。
4.助成金の支給
離職率算定期間が終了してから2ヵ月以内に、支給申請書を各都道府県の労働局に提出する必要がある。
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補助金と比べて手軽に活用しやすい点が、助成金の特長です。
基本的な条件を満たしていればほぼ支給されるほか、補助金のように厳格な審査はなく、受給後の経費報告も不要です(その分、補助金よりも支給額が限られるケースは多いです)。
しかし「助成金はもうやっている」という企業様もいらっしゃるものの、まだまだ申請漏れがあるケースが散見されます。
年間で発表される公的支援制度(助成金・補助金)の数は、約3,000種類にも上ります。
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機会損失にならないよう、助成金のご活用をぜひご検討ください。