脱炭素化は、人類の経済活動や社会生活における二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出を減らし、最終的にはゼロにすることを指します。これは、気候変動や地球温暖化に対する対策の一環であり、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を削減し、地球の気候変動の緩和を目指すものです。本記事では、世界的な潮流となっている脱炭素化の目標と企業としての取り組みを解説します。
あわせて各言葉の意味と定義、国内外企業の現状や取り組み、中小企業が活用可能な補助金についても紹介します。
日本政府では、2015年12月のパリ協定が採択した脱炭素化宣言を受け、2050年カーボンニュートラルに向けた基本的考え方、ビジョンなどを示すものとして「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を2021年10月に閣議決定しました。環境省では、分野を超えて重点的に取り組む横断的施策として、特に重要な以下の3つのポイントを示しています。
イノベーション | 温室効果ガスの大幅削減につながる横断的な脱炭素技術の実用化・普及のためのイノベーションの推進・社会実装可能なコストの実現。 |
グリーン・ファイナンスの推進 | イノベーションなどを適切に「見える化」し、金融機関などがそれを後押しする資金循環の仕組みを構築。 |
ビジネス主導の国際展開、国際協力 | 日本の強みである優れた環境技術・製品等の国際展開/相手国と協働した双方に裨益するコ・イノベーション。 |
以降では、脱炭素社会に向けたこれらの3つの目標について詳しく紹介していきます。
参考:環境省|パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)について
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2050年カーボンニュートラル実現に向け、革新的技術の開発・実用化を加速させ、国際競争力を強化しながら経済成長と環境保全を両立する社会を目指します。イノベーションの推進は、「技術のイノベーション」「経済社会システムのイノベーション」「ライフスタイルのイノベーション」の3つの視点から説明されています。
技術のイノベーションにおける主な重点分野は、以下のとおりです。
また、社会の脱炭素化を進めるには技術の普及を図る「経済社会システムのイノベーション」が不可欠です。これを実現するためには、民間の活力を最大限に引き出し、資金や投資を呼び込みながら国による「野心的なビジョンに向けた一貫した気候変動政策」と「投資環境の整備」が必要です。
更に「地域・くらし」におけるビジョンを実現するためには、ライフスタイル関連の技術のイノベーションとともに、「ライフスタイルのイノベーション」も求められます。モノの消費からコトの消費への転換やエシカル消費の拡大、デジタル化やブロックチェーンなどの活用による製品やサービスの環境価値の可視化を通じ、脱炭素行動を促進することが重要です。
グリーン・ファイナンスの推進では、環境への負荷を低減する事業への投資を促進し、持続可能な経済成長の実現を目指します。環境に配慮したプロジェクトや、活動に資金を提供するための債券市場「グリーンボンド市場」は、国内外で成長しており、2020年には国内の発行額が1兆円を超えました。
国では、これに対応するため、発行支援体制を整備し、グリーンボンドガイドラインの改訂を実施しています。また、脱炭素社会の実現を支援するために、トランジション・ファイナンスに関する基本指針を策定し、各分野別ロードマップを作成。アジア版トランジション・ファイナンスの枠組みを策定し、新興国のエネルギートランジションを進めています。
更に10年以上の長期的な事業計画の認定を受けた事業者に対し、成果連動型の利子補給制度を創設し、トランジションの取り組みを支援。再生可能エネルギー事業や低燃費技術の支援のためのグリーン投資促進ファンドの創設、グリーンボンドやソーシャルボンドのガイドラインを策定し、企業や投資家向けの情報提供も進めています。
参考:環境省|グリーンファイナンス市場の動向について
参考:環境省|グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン
参考:経済産業省|企業の脱炭素化をサポートする「トランジション・ファイナンス」とは?(後編)~世界の動向と日本の取り組み
気候変動問題は、一国のみで解決できる問題ではなく、世界全体で温室効果ガスの排出削減を行っていくことが必要不可欠です。日本は、世界の脱炭素化をけん引する国際的リーダーシップを発揮し、存在感の強化を図りながら社会貢献を目指しています。
米国・欧州との連携においては、イノベーション政策や新興国での脱炭素化支援に重点を置き、個別プロジェクトの推進や技術の標準化、貿易障壁の除去などのルールメイキングに尽力。アジア新興国などとの連携では、現実的なアプローチで脱炭素化へのコミットメントを促進し、現地のニーズに合わせた施策・制度の構築や個別プロジェクトの実施を通じて、市場創出の支援を行っています。
国際イベントを通じた国際発信・国際連携については、「東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク」において、エネルギー・環境関連の国際会議を集中的に開催し、日本の成長戦略を世界に向けて発信しました。また、「ジャパン環境ウィーク」や「脱炭素都市国際フォーラム」を通じて、脱炭素に向けた取り組みを発信し国際協力を推進しています。
脱炭素化社会に向けて、大きな役割を担うのが企業です。脱炭素経営は、企業が事業活動における温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ(カーボンニュートラル)」にすることを目指し、経営戦略を策定する取り組みを指します。ここでは、脱炭素経営について解説します。
脱炭素経営の定義は、さまざまです。一般的な枠組みやガイドラインがあるわけではありませんが、環境省では以下のように定義しています。
“脱炭素経営とは、気候変動対策(≒脱炭素)の視点を織り込んだ企業経営のこと” 参考:環境省|脱炭素経営とは |
国が掲げる2050年カーボンニュートラルを実現するためには、すべての事業者が脱炭素経営を推進していく必要があります。
「脱炭素経営への取り組み」は、パリ協定をきっかけとして世界が脱炭素化への動きを強めるなか、環境保護や持続可能性を考慮した経営戦略の一部としてとらえられるようになってきています。国では、こうした動きを支援し、各種施策に関する勉強会の開催や企業の脱炭素経営の具体的な取り組みについての各種ガイドの改定などを行い、促進を図っている状況です。
企業側では、経営戦略の開示(TCFD)や脱炭素に向けた目標設定(SBT、RE100)といった脱炭素経営に取り組む動きが見られます。
参考:環境省|中小規模事業者のための 脱炭素経営ハンドブック
世界的に脱炭素化への要求が高まっています。日本でも、特にグローバル展開している企業では、脱炭素の取り組みが喫緊の課題です。世界に認められる脱炭素経営を目指すうえでは、客観性のある成果を示すための基準を採用する必要があります。
ただし企業にとって、どの国際基準に準拠するか選択に悩むところです。例えば、大企業では特にRE100やI-RECといった権威性の高い証書を取得することで自社の取り組み姿勢を明らかにしています。
関連記事:RE100とは?日本の加盟企業や加盟方法、電力会社の選び方など最新情報を解説
「再エネ100宣言 RE Action」は、RE100(再生可能エネルギー100%を目指す企業のグループ)の参加要件を満たさない中小企業などが、使用電力の100%を再生可能エネルギーにすることを目指す枠組みです。これは、再生可能エネルギーの普及を促進し、持続可能なエネルギーへの移行を支援する取り組みの一環となります。
参考:再エネ100宣言 RE Action
「再エネ100宣言 RE Action」の企業事例
ここでは、脱炭素化を目指す中小企業が使用できる補助金や事業債を紹介します。
ストレージパリティ補助金は、自家消費型太陽光発電設備および蓄電池等の導入を支援する補助金です。この補助金は経済産業省が所管する「エネルギー供給強靱化法」に基づき、環境省が実施しています。補助金の額は、対象設備の導入規模などで異なりますが、最大で導入経費の2分の1です。
ストレージパリティ補助金により、自家消費型太陽光発電設備および蓄電池等の導入支援が受けることで、以下の効果が期待できます。
参考:一般財団法人 環境イノベーション情報機構|1-2. 補助金の基準額
再生可能エネルギー事業者支援事業費補助金は、経済産業省が所管する補助金制度です。この制度では再生可能エネルギー事業者の事業活動を支援し、再生可能エネルギーの導入拡大を促進することを目的としています。補助金の対象となる事業は、以下のとおりです。
補助金の額は、事業の種類や規模などで異なりますが、最大で事業費の3分の1となります。
参考:経済産業省|各種支援制度
省エネ補助金(省エネルギー投資促進支援事業)とは、経済産業省が実施する補助金制度です。この制度は、エネルギー効率の向上に資する設備などを導入する際に費用の一部を補助するものです。補助金の対象となる設備・システムは、以下のとおりです。
省エネ補助金には、以下の4つの種類があります。
参考:経済産業省|各種支援制度
工場・事業場での脱炭素化のロールモデルを作り出し、そのノウハウを広く公表しながら、2030年度の温室効果ガス削減目標達成や2050年のカーボンニュートラルの実現貢献を目的としています。具体的な事業内容は、以下のとおりです。
参考:環境省|工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT事業)のうちCO2削減計画策定支援及び省CO2型設備更新支援の公募開始について
令和5年度より、地方公共団体が脱炭素化の取り組み実施を促すための「脱炭素化推進事業債」が創設されました。対象となる事業は、地方公共団体実行計画に基づき、公共施設などで脱炭素化のために実施される事業です。具体的には以下のようなものがあります。
脱炭素化推進事業債の充当率は90%、交付税措置率は最大で50%です。
中小企業が脱炭素の取り組みを始める際、大企業が参加する「RE100」や「I-REC」などは、大きな障壁です。しかし、電力契約の切り替えによる方法もあります。まずは、取り組みやすいものから始めてみてはいかがでしょうか。
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関連記事:非化石証書とは? その仕組みや種類、取引市場について解説
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