「作業環境改善への意識が世の中で高まっている。VOC(揮発性有機化合物)が発生する塗装工場でも同様です」。
(株)西部技研の中濱信孝氏(プロダクトマネジメント本部 全熱/リニューアルグループ プロダクトマネージャー)はこう語る。
VOCは、塗装で用いられる塗料や、洗浄するときの溶剤などに含まれる物質で、光化学スモッグの原因物質の一つでもある。
「塗装工場の換気をなるべく良くしないと、VOCが作業者のエリアに流れ、頭痛などの健康問題を引き起こしかねません」(中濱氏)。
また労働安全衛生法によって、作業環境評価基準が定められていることもあり、工場の作業環境改善は内外から求められている状況といえる。
一般的にVOCを含む空気が低濃度であれば、そのまま排気できるものの、大気排出基準を上回る場合は、何らかの処理をして排気する必要がある。
いずれにしても排気すればするほど、より多くの外気を取り入れるため、工場内の空調に負荷が増していく。
一般的な外気取り入れ方法の場合、空調のみによって外気をそのまま取り入れるため(オールフレッシュ型)、特に夏の冷房と冬の暖房に向けてより大きなエネルギーが必要とされてしまう。
つまり作業環境の改善と省エネをいかに両立するか?これが塗装工場の省エネジレンマだ。
西部技研の「エネセーブ・イオン」
そこで西部技研が開発したのが、熱回収装置「エネセーブ・イオン」だ。既設の空調機と排気ファンに後付けする形での使用も可能だという。
エネセーブ・イオンの外観(同社サイトより)
工場内の空気を排気するといっても、全て外に吐き出してしまう必要はない。「塗装ブースからは、高温の排気が出る。それをみすみす捨ててしまうのはもったいない」と中濱氏は語る。
工場から出る排気のうち、空調に再利用できる熱エネルギーを回収しつつ、有害なVOCは外に排出する。これがエネセーブ・イオンの特長だという。
空調の冷却除湿(夏)や加熱加湿(冬)に必要なエネルギーを大幅に抑えられるため、空調機の小型化も可能になるとしている。
省エネと換気の両立が必要な作業環境の中でも、印刷工場や電子部品工場など、VOCが発生する施設では特に効果的だという。
仕組みの概要
エネセーブ・イオンは、VOCを含む低温の産業排熱を回収して、エネルギーを有効利用していく。
たとえば冬であれば、暖房された建物の中は、比較的高温多湿となっている。この室内空気を排気ダクトから排出する前に、エネセーブ・イオンの熱交換ローターによって温度(顕熱交換)と湿度(潜熱交換)が回収される。
そしてこの回収したエネルギーによって、低温低湿の外気を予熱・加湿して室内に供給するという。夏はその逆で、外気を予冷・除湿して室内に供給することになる。
たとえば外気が0度、室内が22度だったとした場合、エネセーブ・イオンによって取り入れる外気は16度ほどまで上がるという。0度の空気を暖めるよりも空調の省エネになるという仕組みだ。
また室内で発生した有害ガスや臭気についても、こうした供給空気に混ぜることなく排出できるため、空調負荷を抑えつつ室内にいる人が濃度の高いガスを吸うこともなくなるという。
「VOCが発生する大きな工場で、こうした取り組みをしているケースはまだ少ないため、我々が積極的に提案させていただいている」(中濱氏)。
エネセーブ・イオンの効果
エネセーブ・イオンによる1年を通した省エネ効果は、次の通りになるという。
※EIU-P4200T(送風機33kw×1台)、供給空気風量60000CMH時のエネルギー使用量(kW)※外気条件:福岡気象台データ参考
年間電気代にすると削減効果は64%に上るという。投資効果としては、風量や工場規模によるものの、設備費焼却が最短約3年で完了するとしている。
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