2019年度、省エネ大賞を受賞した株式会社ラウンドワン(本社・大阪市)。同社はボウリングやアミューズメントなど、スポーツを中心とした地域密着型の屋内型複合レジャー施設を運営しており、この15年で売上高を倍増させている。
着実な成長を続けるラウンドワンが省エネに取り組んだきっかけは、省エネ法改正と東日本大震災だった。
2009年の省エネ法改正で、特定事業者の指定を受けていた同社。2011年3月の東日本大震災で節電を迫られてから、節電への意識が強くなった。震災から2年後の2013年には、リバウンドでエネルギー使用量が増えたものの、その後は着実に減少を続けている。
一体、どんな努力をしているのか?スタッフの理解をどうやって得ているのか?特定事業者指定後の8年間で2割以上もエネルギー原単位を削減させた取り組みに、興味を抱かざるを得ない。
「2~3年分の電気代削減効果でペイできない省エネ投資はしない」という厳しいコストパフォーマンスを求めながらも、スタッフにも来店客にも省エネによる負担は全くないそうだ。
10年以上にわたってコスト管理室長を務め、各店舗のエネルギー使用状況に目を光らせ、メーカーとの調整も行ってきた谷山学氏に、省エネの取り組みについて話を聞いた。
ラウンドワンの谷山学氏(コスト管理室 室長)
ラウンドワンがコスト管理室を立ち上げたのは2007年のことだった。
当初から室長としてコスト削減に目を光らせた谷山氏。当時は経費の見直しが中心であった。2009年に省エネ法が改正され、電力関係の契約も担当していたことから、谷山氏がエネルギー管理企画推進者に選任された。
ただ、省エネについて具体的にしたことは「電源を消す時間を早める」といった現場でできる運用面に限られ、「ハード面で行ったことは特になかった」と振り返る。
すべてを変えたのが東日本大震災だった。東京電力管内で計画停電まで行われるほど逼迫した電力需給。ラウンドワンではまず、看板の電気を消し、ゲーム機の半分の電源を落とした。同時にエレベーターやエスカレーターも止め、エアコンの設定温度も上げた。エアコンの室外機に散水(ミスト)することで、エアコンの効率を高めた。さらにダイキン工業株式会社と契約し、使用電力量を一定以下にするデマンドコントロールも始めた。
ラウンドワンではそれまで、エアコンの稼働状況をリアルタイムでダイキンに伝えるエアネットに加入していたが、エアコンの故障が伝わる程度で省エネ関係の取り組みではなかったという。
いざデマンドコントロールを始めてみると、お盆時期など使用電力量がピークを迎える時期であっても無理なく節電できた。
ダイキンによるデマンドコントロールシステムは、段階的に使用電力量を減らすことができる仕様だったこと、各店の空調システムが細分化されていて用途別のスペースごとに設定温度を変更できたことも奏功した。
ダイキンによるサービスイメージ(ダイキンのサイト情報を加工して作成)
デマンドコントロールでは、使用電力量が増え始めると人の少ないところの空調設定温度を引き上げる設定にした。
「外気が35度の時に、玄関口の室温は30度でも涼しいと感じられる」
「ボウリング場はずっと人がいるので25度に保たないといけない」
「漫画スペースや食事のスペースはそれほど冷やさなくてもいいが、バスケットやテニスは激しい運動をするので23度がいい」
谷山氏はスペースごとに温度設定を考えた。さらに、店ごとに細かく設定してデマンドコントロールのプログラミングに反映させていった。
その結果、一定の空間を維持するのに必要なエネルギー原単位は、2009年の10.89から、震災翌年の2012年には9.07にまで減少した。
まさに劇的な改善。しかし、2013年には10.38にまでリバウンド。快適性よりも省エネを優先した「無理な取り組み」だったことが明らかになったといえる。
エリアごとの使用用途に合わせたデマンド制御イメージ(ダイキンのサイト情報を加工して作成)
リバウンドしたことから、対策として同年に省エネ診断を受けた。
その結果、店舗のエネルギー消費のうち、空調(30%)と照明(27%)、アミューズメント機器(22%)の3つだけで8割を占めることがわかった。何にメスを入れればよいかが一目瞭然となった結果、谷山氏が進める省エネ対策はスピードアップする。
最もコストパフォーマンスに優れた省エネ対策は、照明設備の改修であった。国内全105店舗の店内や看板の照明を、3年かけてLED化。店舗内の定格消費電力を2577kWから1002kWへと61%も削減できた。
看板などの外部照明に至っては、2359kWから719kWへと69%も削減。年間の省エネ実績は49.4GWhとなった。
看板の照明などは「温かみのある色合い」が必要だ。しかし、それまでは世の中に存在しなかった。「なんとか作られへんか」。谷山氏のメーカーとの折衝が始まった。「世界初」に取り組むメーカー側は開発に苦労し、時間もかかった。苦労の末に完成した世界初のLED照明は、劇的な省エネ効果をもたらした。
屋上屋根の遮熱塗装も劇的な効果をもたらした。対象となったのは、倉庫などに使われることの多い、折板屋根という波上の屋根をもつ旧タイプの6店舗だけ。
年間の省エネ実績では0.2GWhと少なかったが、真夏になると「いくらエアコンを効かせようとしても、まったく効かなかったのが、明らかに効くようになった」という。谷山氏はさまざまな遮熱材を検証し、コストパフォーマンスや保証期間などを比べた結果、ダイキンを選んだ。
アミューズメント機器の省エネでも、効果を発揮したのはLED化であった。
クレーンゲームは既存機をLED搭載の新機種に替えるだけで、1台の消費電力が500Wから150Wへと3分の1以下に減らすことができた。メダルゲームでは消費電力の多いハロゲンランプが使われていたが、すべてLED化した。
威力を発揮したのが、ラウンドワンの修理部隊だ。もともと、修理担当の専門社員で構成された修理部隊は、メダルゲームにつけるLED照明キットの製作をメーカーに依頼。LEDには一部のみが明るく見える欠点があるが、試行錯誤の上でハロゲンランプとそん色のないLED照明キットを作ってもらい、交換していった。
その結果、1台分の照明用消費電力は60.0Wから5.8Wへと10分の1以下にまで減った。
一昨年から去年にかけては、ボウリング場の設備を更新。一部にはブラウン管のモニターも残っていたが、すべてLEDモニターに更新した。
モニターを通じてサービスを提供できる新たなシステムも導入し、省エネの実現とともにサービスの充実による集客増、売り上げ拡大を実現させた。
その成果は如実に表れた。エネルギー原単位は2009年段階で10.89、2013年のリバウンド時点で10.38だったが、2017年には8.59まで下がった。割合にして21%という大きな削減であった。
取り組みで注目に値するのが、スタッフにも顧客にも負担をかけていないという点だ。谷山氏は「デマンドコントロールで空調を制御していることが誰もわからないのを理想」としているが、「ほとんど理想的な状態ができている」と語る。
デマンドコントロールによって快適性が失われれば、当然、「暑い」といった苦情が顧客やスタッフから上がるはずだが、苦情は年に1件程度。「昨日はエアコンが効かなかった」「店内が暑くなった」という苦情には、プログラムの変更などで即応しており、2019年に至っては「苦情ゼロ」だったという。
省エネに取り組むにあたり、スタッフへの負担は生まれなかった。各店舗のスタッフの半数はパートやアルバイトが占めているため、もし現場の運用面で省エネを行う必要があれば、スタッフへの教育が重要になる。しかし、ラウンドワンの省エネはすべてコスト管理室による本社対応で行われ、「これをやって」と現場に何かを強いる場面がない。
谷山氏は「スタッフには省エネをやっているという意識が全くないのでは」と話す。
例えばLEDへの交換は、「明るくなる」「電気代が下がる」「耐久力がアップする」と、各店舗が喜ぶことばかり。「省エネ」というと「こまめに電気を消して」といった「手間」がイメージされるが、ラウンドワンの省エネは「現場が喜ぶ省エネ」。省エネの取り組みについては各店長がスタッフらに伝えており、その意義についての理解はしっかりと浸透している。同時に、現場にとって「やらされている感」のないことが大きな強みとなっている。
もちろん、現場社員の意識づけなども重要であり、谷山氏一人で成しえることではない。本事例を参考にする際は、現場の意識づけもセットで考える必要があろう。
谷山氏が今年の省エネに向けてダイキンと話しているのが、平日に限ったデマンドコントロールのプログラム開発だ。
電力会社との契約電力を引き下げて電気料金を抑えるには、最大使用電力を下げる必要がある。そのためには、お盆などのピーク時の最大使用電力を引き下げるデマンドコントロールが有効だが、もともとお盆時期などに比べてはるかに少ない平日の使用電力量を抑えても契約電力は下がらない。
それでも、谷山氏が平日のみのデマンドコントロールを考えたのは、契約電力の抑制にはならなくても、電力使用量を下げる余地があると見たためだ。「使用電力量の多い週末などにエアコンの設定温度を引き上げても全く苦情がないのだから、使用電力量が少ない平日でも苦情なく抑えられる」と考えた。
仮にデマンドコントロールによってお盆時期などの最大電力が15%抑制されていたとしたら、平日の最大電力も15%抑制できるはず。お盆時期に500kWから15%の抑制ができていれば、平日でも通常の400kWを340kWにまで抑えられるというわけだ。
平日のデマンドコントロールは昨年中に3店で実験的に導入しており、これまでのところ大きな問題は生じていない。
照明が夜にだけつくことなど、昼夜間の違いや店舗ごとの違いはある。細かなポイントに気を使う必要があるものの、「プログラミングをきちんとすれば問題ない」ため、今年から本格導入する予定だという。
契約電力は下がらないが、日々の電気代の節約には直結する平日のデマンドコントロール。それがどれだけのコスト削減につながるかは定かではないが、谷山氏は「投資コストはゼロ」と、コスト管理室長ならではの見方を示す。
「2~3年分の電気代削減効果でペイできない省エネ投資はしない」という厳しい基準で省エネに臨む谷山氏。
投資回収にそれ以上の年数がかかりそうな場合は、資材や手法の工夫、複数業者からの相見積もりなどを駆使して、2、3年のうちに投資回収できるよう工夫する。その目途がたってから初めて実行に移すという具合だ。
そうした厳しいコスパ意識を持ちながら、8年間で21%ものエネルギー原単位を削減させる一方で、店舗数や売上高は着実に増やしてきた。
そこには、スタッフや顧客に影響を与えない快適性と省エネを両立させた、エンターテイメント空間の確立があった。
省エネによるコスト削減効果は2009年比で相当な金額になるという。これから先の5年、10年でどれだけの上積みを図れるのか。その先行き、その取り組みを省エネ大賞受賞後のこれからも注目したい。
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