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中小企業IoTの先進事例、旭鉄工が語る導入・活用ノウハウ

作成者: エネチェンジBiz編集部|2019/12/18 8:16:42

今や製造業によるIoT分野をリードする存在となった自動車部品メーカーの旭鉄工株式会社(愛知県碧南市)。

同社は当初、製造ラインのIoT化によって生産性向上などを目指そうとしたものの、外部のベンダーが販売するIoTシステムは高額で手が出せず。

そこで秋葉原で購入した汎用センサーなどを使って自前でIoTシステムを構築。製造ラインを遠隔でモニタリングできるようにした上で、改善活動に取り組んだことで、労務費を年間2億円以上削減するなど、大きな成果につなげています。

さらに施策を主導した同社の木村哲也氏(代表取締役社長)は、獲得したノウハウの外販にも着手。製造業によるIoT施策の支援を一気通貫で手掛けるi Smart Technologies株式会社を2016年に立ち上げました。

さらに施策の経緯やノウハウなどを書いた著書「Small Facetory 4.0」を出版するなど、IoT分野での存在感をますます強めています。

IoT化による生産性向上のポイントは何か?木村氏が「新価値創造展2019」(11月29日)で語った内容を書き起こしでお伝えします。

稼働状況、スマホで常時把握

私はトヨタ自動車から旭鉄工という自動車部品製造の会社に2013年に転籍しました。そこから6年間でどう変わったか?という話から始めたいと思います。

今では旭鉄工の製造ラインの約6割がIoTによって常時モニタリングされているので、タイにいても東京にいても稼働状況が手元のスマホで分かる仕組みになっています。

一般的な改善ステップのうち、従来は現状把握が人手も時間も一番かかるフェーズでしたが、IoT化によって24時間365日データを自動で取ることができます。それによってデータを元に現地現物で問題点を確認して、すぐ改善検討に入り実行できるようになります。

 

IoT化によって現状把握フェーズを大幅に短縮(同社サイトより)

 

IoTデータ活用、仕組みづくりが重要

ちなみに私はIoTのデータ活用を阻む「サル」が3匹いるといつも言っています。

一匹目は「見ざる」。これはデータを見ていないケースです。うちのシステムのお客さまでも、利用履歴をみるとあまりログインされていない方がいます。それでは良くなりません。

二匹目は「言わざる」。たとえば担当者がデータを見ているが、結果が悪く共有すると怒られそうだから黙っていようという場合です。

三匹目が「聞かざる」。データの閲覧も共有もしているが、改善方法が分からずお手上げというケースです。これは裏を返すとデータ活用の仕組みづくりがちゃんとセットでないとうまくいかないということです。

旭鉄工でとても効果が出ている理由は、この仕組みがちゃんと回っているからです。どういう仕組みかは時間がないので省きますが、単にIoT化しただけではうまくいかないということです。

IoT活用を促進するマネジメント

また仕組みづくりだけでなく、様々な仕掛けもあります。実際に効果を出すために色々な工夫をしました。ここを詳しく話すとそれだけで20分たってしまうので少しだけご紹介します。

(「よくできました」という文字が入ったスタンプを見せながら)これをいつも社内や工場を歩くときに持ち歩くんです。設備稼働の改善に限らず、良いなと思ったらポンと押します。一番肝心なので触れましたが「褒めると改善が進む」ということです。そういったマネジメントの工夫がたくさんあります。

うち(i Smart Technologies)のIoTサービスを使うと、すごく細かく問題点が見えるわけです。「何時何分から何秒止まっている」といった形で相当シビアに可視化されます。

では私がそういうデータで問題点を見つけて、「できていないじゃないか」と現場を叱責しても良くなりません。モチベーションが下がるだけです。問題点を見つけるのは課長や係長がやれば良いので、私がやることではない。

たとえば今まで1時間に100個しか出来ていなかった部品が、サイクルタイムが短くなったことで120個出来るようになったとします。そういう改善点にデータで気づくと、私は現場に行って聞くようにしています。

「サイクルタイムが短くなったね。何をやったの?」と。そうすると現場は自分で改善したことなので「こういうことをやりました」と返してくれる。次に私が言うことは決まっています。「いいね、なるほど、ありがとう」と言うと、また次がんばってくれるんですね。ものすごく単純な話ですが、ものすごく効果があります。

そういった工夫をすることで、旭鉄工での改善活動のプロジェクト数が、2015~18年にかけて6ラインから7倍増えて41ラインになりました。ちなみにこの改善プロジェクトは5%や10%アップといったレベルではありません。30%、40%、50%アップの水準での改善が年間41ライン出来ているということです。これはかなりとんでもないスピードです。

効果検証、IoTデータと月次決算を突き合わせる

他の工夫もあります。

我々は月次で決算を出しているのですが、それを共有して終わりではありません。まず課長級の社員を全員集めて共有します。そこで改善の進捗と今後の計画を報告してもらいます。たとえば製造課長から「先月はこういう改善をやったので、労務費が35万円下がっているはずです」「今月はこういう改善をします。それによって労務費が20万円下がる見込みです」といった具合です。

今までは「これだけ改善しました」と言っても決算と突き合わせていないので実際のところはよく分からなかった。今は改善結果と決算が100%一致とはいきませんが、7割くらいは一致します。おそらくこんなことをやっている会社はほとんどないと思います。

実は我々は生産数や稼働時間、停止時間のデータしか取っていないのですが、でもそれは経営にとっては非常に大事なデータ。それを使って課長級以上と打ち合わせしているわけです。つまりデータに基づいた経営にかなりシフトしています。

これによって生産性が大きく改善しました。

全社のラインのうち4割の生産性が、平均43%向上しています。たまに「IoTで生産性が30%アップしました」といった報告がありますが、それだけでは「それは何ラインでやったのですか?そこだけ改善しただけでは?」という疑問が出てしまいます。

弊社はそうではなく、100ものラインで平均43%向上したということです。それと共に経理の数値と突き合わせているので、労務費が8%ほど下がったことも分かっています。年間で2億数千万円くらいの規模です。

2本目に続く