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ヒートポンプの実力、空調のエネルギー需要を激減させた大手メーカーの事例

作成者: 飯塚隆志|2020/09/15 9:20:14

 

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は「軽いのに強い」という特性から、ゴルフクラブのシャフトや釣り竿、テニスラケットのフレーム、車のパーツなど幅広く使われている。すでに多くの人になじみのある素材だが、製造工程で大量のエネルギーが消費されていることを知っている人は少ないのではないだろうか。

ある大手メーカーは、アルミ素材からCFRP素材への転換に伴いエネルギー需要が急増した。そんな中、「ヒートポンプ」によってエネルギー需要を激減させたという。

「冷やして温める」というCFRP製品製造に欠かせない工程で効果を発揮したヒートポンプの実力とは?一般社団法人全国エネルギー管理士連盟代表理事・川合嘉博氏の、30回省エネ情報交換会in名古屋一般社団法人全国エネルギー管理士連盟主催)における講演の模様をレポートする。

全国エネルギー管理士連盟代表理事の川合氏

 

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の罠

この大手メーカーは、愛知県にある工場でCFRPを使った巨大な部品を製作している。工場の契約電力14,616kWだ。CFRPを加工するには空調をフル回転させる必要があり、膨大な電力を消費するという。

この工場では炭素繊維にエポキシ樹脂をしみ込ませたシートを使い、いろいろな型に貼り合わせて焼き固めている。しかし、炭素繊維は常温で保存していると強度が出なくなる。通常は零下18度以下だと6カ月程度は保管できるが、5度以下だと2カ月、20度以下だと14日しかもたない。

そのため、20度程度の場所では、2週間以内に製造しないといけない。また、型の表面にシートを貼り付ける場所もクリーンルームと決まっている。この工程では水分とホコリ、空気を嫌う。

この工場では2024度の中で作業し、積層したシートの間の空気を抜くために真空のなか、180度で焼く。これが消費電力の大きさにつながっており、川合氏は「この工程は製造物の大小関係ない。契約電力があれだけ大きくなることを理解してもらえると思う」と説明する。

 

冷やし温めるという非情な工程

CFRP部品製造のための工場が3か所ある。

最初の工場は2006年に完成。2010年に2つ目、2015年に3つ目の工場ができた。愛知県の都市部にある工場で、地方よりも空気の汚れがあるため外気はフィルターを通して入れた。

さらに、水分を排除するために厳しく湿度をコントロール。作業時の湿度を一定以下にするため、冬場以外は気温を10度にまで下げて湿度を45%前後にしたうえで、作業時の温度22度程度まで上げる必要がある。この冷却して再度加熱する過程で、最もエネルギーを消費する。

(出典:全国エネルギー管理士連盟の当日発表資料より)

クリーンルームは与圧をかけるため、取り入れた空気の10%を外に出している。2006年と2010年に完成した工場では、冷水チラーで冷却して、電気ヒーターで再加熱していた。冬場の場合は加湿、加熱する。2010年に完成した工場も下図のように、冷水チラーと電気ヒーターしかなく、膨大な消費電力のままだった。

(出典:全国エネルギー管理士連盟の当日発表資料より)

 

ヒートポンプが出回り、認知されるようになったのは、2010年前後から。3つめの工場が完成した2015年には、ヒートポンプが認知されていた。温水ヒートポンプを使おうとなった結果、下の図にあるように、冷水チラーとともに温水ヒートポンプが設置された。

(出典:当日発表資料より)

 

ヒートポンプの威力

成果は劇的なものだった。2010年完成の工場ではヒーターの電力が1,776kW必要だったが、温水ヒートポンプに必要な電力は616kW3分の1程度にまで減ったのだ。冷却用の電力も機器の性能向上もあり減少した。

空気を循環させるためのエアハンドリングユニット(エアハン)の消費電力は、構造が複雑になったため微増したが、全体の使用電力は「2、3割減った」という。

(出典:全国エネルギー管理士連盟の当日発表資料より)

上記の棒グラフにある通り、ヒートポンプを使っていない工場では、夏場を中心にヒーターの電力が冷水系統の電力を上回る日々が続いた。それに対し、ヒートポンプが設置された工場は冷水系統が使用電力の大半を占め、ヒートポンプを中心とした温水系統の使用電力はごくわずかになっている。

円グラフは「エアハン・加湿」と「冷水系統」「ヒーター(温水系統)」の割合を示している。赤の温水系統は右側のヒートポンプ設置工場では9%にとどまり、消費電力の32程度が「エアハン・加湿」用に使われていることがわかる。

空気1立方メートル当たりの電力消費量をヒートポンプのある工場とない工場を比較してみると、「エアハン・加湿」が10.5%増加したのに対し、「冷水系統」は41.2%減り、「ヒーター(温水系統)」はなんと82.6%減、2割以下にまで減っている。

 

貴重な気象庁のデータ

(出典:全国エネルギー管理士連盟の当日発表資料より)

外気温の状況を考えてみると、寒い時期は「エアハン・加湿」が高まり、暑い時期は「冷水系統」が高まる。これはヒートポンプの有無にかかわらず同じような傾向だが、「ヒーター温水系統)」は旧式のヒーターが寒い時期にほとんど使われないのに対し、ヒートポンプはしばしば使われる。

結果、上記グラフのようにヒートポンプ設置工場では外気零度前後の寒い時期になると、暑い時期より消費電力量が増加するという。このことを踏まえ、川合氏は「冬場には注意が必要」と指摘した。

「昨今は、ヒートポンプ技術の発展が目覚ましく高性能の機器が流通している。従来のヒーターなどの熱源機器を代替することによって大幅に消費電力の削減が図れる」と川合氏は主張。そのうえで、「より一層の省エネルギーのためヒートポンプの活用を」と訴えた。ヒートポンプの大きな可能性を感じられた講演であった。

 

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