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塗るだけで省エネのサーモレジンSV、工場の炉や倉庫の屋根などで効果を発揮

作成者: エネチェンジBiz編集部|2020/08/25 2:46:18

「塗るだけで省エネ」と聞いてどのような印象を受けるだろうか?

手軽に省エネできるこうした塗料製品に魅力を感じる人がいる一方で、その効果に疑問を感じる省エネ担当者もいるかもしれない。

実際に工場の炉に断熱塗料を塗ったものの省エネ効果が出なかった、といったケースも少なくない。

そうした塗料という分野において、初めて省エネ大賞(中小企業庁長官賞)を受賞した製品が「サーモレジンSV」だ。

機能性塗料メーカーの中外商工株式会社(大阪市西区)によるこの「遮熱」塗料(後述するが、「断熱」塗料ではない点がポイント)。工業用の炉や鋼板屋根に薄く塗るだけで熱効率を改善し、エネルギー費用を削減できる。さらに熱中症対策にもなるという。

しかも導入後の改善数値は、事前のシミュレーション数値とほぼ合致するという手堅い効果を持つうえに、工事期間も多くの場合1日で済む。

その省エネ性能の高さが評価され、自動車や家電メーカーをはじめ数多くの有名大手企業による採用実績を持つ一方で、手軽に導入できる製品特長を武器に、今後は中小企業への拡販も視野に入れる。

しかし省エネ大賞を受賞するほどの品質を持つサーモレジンSVでも、顧客から容易に受け入れられたわけではなかった。

「本当に効果が出るのか?信じられない」といった反応を営業先で受けることもあったという。

「なぜサーモレジンSVを塗ると省エネになるのか。実はこの原理はまだあまり世の中に広まっていません」。

そう話すのは中外商工の一本杉勇治氏(セラミック・センサー事業部)。

たとえば加熱炉に塗ることで外に放出される熱が減って省エネになるならば、炉の表面温度は下がるはず、というのが一般的な印象だ。

しかしサーモレジンSVを塗ると、放出される熱の量が減るにもかかわらず、むしろ表面温度が少し上がるという。

もちろん設備の稼働に影響を及ぼすほどではないが、理解しづらい現象だ。

「確かに塗るのが断熱塗料であれば、炉の表面温度は下がります。しかしサーモレジンSVは遮熱塗料なので、そもそもの原理が異なるのです」(一本杉氏)。

「熱」と一口にいってもその種類は複数ある。断熱塗料によって抑えられるのは「対流熱」と呼ばれる熱である一方で、遮熱塗料が作用するのは「放射熱」(輻射熱)という熱だ。

 

従来から省エネ業界において前者は一般的だったが、後者はサーモレジンSVが登場するまで盲点とも言えるべき着眼点だった。

その盲点をついた発想で従来の断熱塗料製品を上回る品質を実現し、省エネ大賞を受賞した遮熱塗料がサーモレジンSVだ。

サーモレジンSVの紹介動画

 

製品化、顧客の声がきっかけ

実は「サーモレジンSV」が製品として出来上がった流れには、偶然の要素もある。

元々サーモレジンは、「サーモレジン断熱工法」という断熱シートと遮熱塗料の組み合わせ製品。効果は大きいが非常に高価なことがネックだったといい、顧客の声を参考に試行錯誤を続けるうちに遮熱塗料のみを塗る方法にいきついた、という経緯があるのだ。

「断熱塗料によって熱の放出量を十分に減らすには、塗料をバームクーヘンのように何層も塗り重ねる必要があります。当時の弊社の断熱塗料の最も外側の層に塗られた塗料が遮熱塗料でした」(一本杉氏)。

ある時、大手家電メーカーの顧客にこう提案された。「層の一番外側である遮熱塗料だけでも十分に省エネ効果が出るのではないか?」。

この提案がサーモレジンSV製品化のきっかけだった。

また加熱炉を持つ顧客の熱中症対策を進める中でも、遮熱塗料の重要性に気づくきっかけがあった。

「加熱炉の側で働くのが暑くて大変だ、という声が以前からありました。弊社でサーモグラフィなどを使って対策を調べていくうちに、炉から放出される放射熱を低減できるのではないか、ということに気づきました」(一本杉氏)。

しかし従来の断熱塗料が作用する熱の種類は対流熱のため、放射熱を減らすことはできない。

「様々な調査を進めるうちに、塗料にこういう工夫を施せば放射熱を抑えられる、といったことが分かってきました」(一本杉氏)。

こうした経緯を経て、遮熱塗料「サーモレジンSV」として製品化していった。今から89年ほど前のことだという。

サーモレジンSVであれば、表面に約10マイクロメートルという薄い量を塗るだけで、放射熱損失量を大幅に低減できる。仮に従来の断熱塗料で同じ効果を出そうとすると、塗料の厚さは56mmに上るという。

熱移動の3要素(中外商工の資料より)

より少ない塗料で省エネ効果を出せるため、安価で工事期間も短いといったメリットを出せるのだ。

なぜ遮熱塗料であれば、薄い厚さで大きな省エネ効果を出せるのか?

 

サーモレジンSVの仕組み

「断熱塗料によって対流熱を止めようとすると、塗料を厚くするしかありません。しかし遮熱塗料によって放射熱を止めるには、厚みは必要ありません。塗料の色に気をつければ良いのです」(一本杉氏)。

放射熱が通る量を減らすことができる色があるのだ。

それがシルバーのような光沢のある金属色だという。サーモレジンSVは、メタリックシルバー色の塗料を塗ることで、放射熱を抑える仕組みなのだ。

この原理はサーモレジンSVに限ったことではない。

「たとえば一般的に炉の表面にシルバーのさび止め塗料が塗られることが多いですが、こうした場合でも結果的に放射熱の量はわずかに減ります。サーモレジンSVでは、放射率を下げる目的でさらに工夫を施しています」(一本杉氏)。

そのため他社のさび止め塗料(シルバー)とサーモレジンSVを塗り比べると、後者のほうがよりピカピカと光る見た目になるという。

サーモレジンSVの施工前後(出典:中外商工資料より)

 

なぜ表面温度が上がるのか?

前述のようにサーモレジンSVを塗って放出される放射熱を抑制すると、若干だが炉の表面温度が上がる。

表面温度が上がる現象は身近でもみられる。

「冬の寒い日に布団に入ると、時間が経つにつれて布団が暖かくなります。要は熱が布団の中にこもっている状態です。熱がこもる場合は、それを覆っている側(炉や布団)の温度は少し上がるのです」(一本杉氏)。

 

サーモレジンSVによる改善前(左)と改善後の各種数値例。改善後の消費電力が27%削減された(ただし、炉の内部で製品の加熱や扉の開閉は行っていない)一方で、表面温度は3度ほど上がっている(出典:中外商工資料より)

こうした説明を営業先ですると、当然ながら「表面温度が上がるような塗料を塗って、設備や製品品質に悪影響が出ないのか?」といった懸念が出るという。

しかし一本杉氏はこう話す。

「設備や製品の不具合や異常は、これまで1件もありません。仮にサーモレジンSVで不具合が起きるならば、他社のシルバーのさび止め塗料を塗っても同じことが起きます。2つの原理は同じだからです」。

 

費用対効果と導入プロセス

サーモレジンSVによる省エネ効果の一例は以下となる。

サーモレジンSVの施工事例(出典:中外商工資料より)

特長の一つは、短期間で費用対効果を実現できる点だという。

サーモレジンSVの塗料の設計価格は、1平方メートルあたり約4000円。

「この価格を聞くと高いという反応をよくいただきます。他社のさび止め塗料は1平方メートルあたり数百円ですので。ただ費用対効果でみたら非常に良いはずです。設備の稼働状況によりますが、塗料代だけであれば半年~1年間で回収できます。工事代を含めても回収期間は12年ほどです」(一本杉氏)。

また導入プロセスは以下のようになる。

  • 事前打ち合わせ(加熱炉などについてのヒアリング)
  • 調査診断(稼働中の加熱炉の現状調査)
  • 提案(費用対効果を含めた省エネ対策方法)
  • 施工

 

施工については、炉が停止しているタイミングで実施する必要がある。そのため定期修繕などの時期での塗装が一般的だ。

「塗装自体は誰でもできますが、塗る前の汚れ落としが本当に大変です。油やホコリが残っていると、塗料も落ちやすくなってしまいます。せっかくお金と手間をかけていただいた製品が掃除不足で落ちてしまうのはもったいないため、弊社の慣れた職人による作業をご提案しております」(一本杉氏)。

またサーモレジンSVによる遮熱効果はどれくらい続くのか?

「サーモレジンSVを発売して89年ですが、当初に導入していただいた顧客の設備に特に変化はありません。そのため少なくとも10年は活用できそうですと申し上げています」(一本杉氏)。

 

導入後の効果計測も実施

 「導入企業様にもう一つ喜んでいただけるのが、塗装後の効果計測も実施させていただく点です。レポーティングに手が回らない企業も多いため、データ(製造量やエネルギー使用量など)をいただける範囲で支援させていただきます」(一本杉氏)。

冒頭で述べたように、こうした導入後の省エネ効果と事前のシミュレーション数値がほぼ合致する手堅い効果もサーモレジンSVの強みだろう。

 

おわりに

顧客の声を元にした試行錯誤の末に製品化されたサーモレジンSV。省エネ大賞に応募したきっかけは、月刊「省エネルギー」に論文を投稿した時のこと。発行元の省エネルギーセンターから推薦を受けたのだという。

「省エネ大賞の受賞案件は冷蔵庫やエアコンなど形がある製品が多いため、塗料では取れないだろうと思っていました。ただ熱心に勧めていただいたので応募した結果、中小企業庁長官賞を受賞できました」と一本杉氏は振り返る。

今後はプレハブ倉庫や体育館など、鋼板屋根を持つ施設での導入も狙う。すでに大手企業による倉庫での導入実績もできた。

導入ハードルが低い製品だけに、今後さらにすそ野が広がりそうだ。

 

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