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省エネ・再エネで利益を出す、中小企業のための実施ノウハウ

作成者: エネチェンジBiz編集部|2020/12/18 5:53:36


株式会社リクロスエクスパンションの中嶋崇史氏

株式会社リクロスエクスパンションの中嶋崇史氏は、専門家の視点からエネルギー関連のサポート事業を手掛ける。

電力会社の運営や、熊本県の球磨・八代地域におけるバイオマス事業、経産省の補助事業「省エネお助け隊」としての支援活動などが一例だ。

「中小企業による省エネの実施や再エネの導入は可能なのか」「低コスト・低リスクで実現する具体策はあるのか」などの課題を念頭に、中嶋氏は「中小企業のための利益を出す省エネ・再エネ導入セミナー」(一般社団法人 熊本環境革新支援センター主催)に登壇。

電気料金に関する環境変化や再エネ導入の増加、2050年までに二酸化炭素ネット排出量ゼロ(カーボンニュートラル)を目指す日本政府の政策目標表明といった昨今の社会情勢を踏まえて、提案を行った。

 

再エネ普及に伴うコスト増

2012年に固定価格買取制度(FIT)が始まって以降、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの導入が急激に進んでおり、20172018年時点では総発電量に占める割合が約18%となった。また、日本政府が2050年カーボンニュートラル・脱炭素社会実現という明確な目標を掲げたこともあり、再生可能エネルギー導入の流れはさらに進んでいくと予想される。その意義について多くは賛成だろうが、「『再エネ普及にどれだけの費用がかかっているのか』というコスト面にも目を向けて行く必要がある」と中嶋氏は問題提起する。

では再生可能エネルギーの導入に関して、コストはどの程度増えているのだろうか。

一般家庭も含め、2019年時に国民が負担している再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、再エネ賦課金)2.98円/kWh。イメージとして1世帯1カ月の電気使用量が約300kWhとすると、月に9001,000円、年間1万円以上の増となる。中嶋氏も「じりじりと上がっているので気づきづらいが、増税分も合わせると2012年から2019年の間に非常にコスト高になってきている」と指摘する。

 

再エネ賦課金の推移(出典:中嶋崇史氏によるセミナー資料より)

 

九州電力を例に見ていくと、一般的な業務用電力の電気代に占める再エネ賦課金の割合は、日中で1015%、夜間帯に至っては20%以上であるため、企業となると月に数十万円の負担増だ。

電気使用量に変化がなくても、コストは確実に上昇している。つまり中小企業にとって「負担が増加する電力コストは、経営に悪影響をもたらしている」と言えるのだ。

特に、売上高営業利益率が低い卸売業や小売業では影響が大きい。例えば契約電力50kWの企業の卸売業の場合、再エネ賦課金で掛かったコストを売り上げで回収しようとすると、年間約2000万円もの新しい売り上げを作る必要があるということになる。これは非常に厳しい数字であり、再エネ賦課金を含めた電気料金上昇が経営を脅かすことさえあるだろう。だから「電気料金を減らすこと」が「 売り上げを作ること」と同意であると認識する必要があるとした。

再エネ賦課金の回収に必要な売上高の目安(出典:中嶋崇史氏によるセミナー資料より)

 

契約変更だけで大幅な経費減

電気代削減というと省エネ施策がイメージされやすいが、簡単にはいかないことも多い。そうした場合、電力会社を切り替えることも有効だと、中嶋氏は話す。

現在は電力市場が自由化されているため、契約先の電力会社を自社で選ぶことができる。電力会社によって電気の調達方法やコストが異なっているため、自社に適した会社を見つけることで、電気代をより安くできる余地が出てくるのだ。

また環境に配慮している電力会社を優先して、再生可能エネルギー100%で電力提供している会社を選ぶこともできる。

一方でこのような提案に利用者からは「電力会社が変わった場合、電気の品質が低下するのではないか」「停電時に復旧が遅れるのではないか」といった質問が出るという。

しかし、中嶋氏はそれらを杞憂だと指摘する。「例えば世界中にファンがいる飲み物をイメージしてほしい。外国で買っても日本で買っても味は同じだが、コンビニエンスストアよりも量販店でまとめて買えば安い。つまり同じ品質のものであっても売り方の差で価格が違ってくるだけ」と説明する。

電力も同じで、電力会社を変えても今までと同じ電線から電気は送られてくるため、仮に停電になったとしても契約先の電力会社とは全く関係なく復旧する。さらに万が一電力会社が倒産したとしても、新しく供給先が決まるまで電気が止まることはない。これらは資源エネルギー庁サイトのQ&Aにも示されている通りのため、安心して契約先変更を検討すべきだとした。

電力会社を切り替えただけで年間700万円以上もの電気代削減を実現した小売店もあるといい、経営に対する影響はとても大きいという。

ある小売店舗のコスト削減事例(出典:中嶋崇史氏によるセミナー資料より)

 

太陽光発電の新システムPPA

電力使用による二酸化炭素の排出量を減らそうとする場合は、「電気使用量を減らすこと」「使うエネルギーを再エネ由来にする」という2つの方法がある。そのうち後者の代表として太陽光発電があるが、その社会的現状はどうだろうか。

現在は太陽光で発電された電力の売電価格が下降を続けている。

2020年度のFITによる売電価格は21円だった一方で、一般家庭の電気使用料金は再エネ賦課金と従量料金を足すと1kWhあたり2526円だった。

つまりそれを踏まえると太陽光発電は「売るよりも自分で使う方が得になる」という流れになっている。

FITによる売電価格の推移(出典:中嶋崇史氏によるセミナー資料より)

 

さらに第三者設置型サービス(PPA)も増加している。PPAは太陽光発電の設備を電力会社が設置し、発電した電気を客が購入するという仕組みだ。

太陽光発電設備の所有権は電力会社が持つため、初期コストやメンテナンス、保険などは電力会社が負担することになる。一方で顧客のコストは使った分の電気量のみとなるため、自社で設備を設置する場合に比べると太陽光発電導入へのハードルが低くなるとした。

企業でも屋根の形状や耐荷重などの課題がクリアできるのであれば、太陽光発電の導入で二酸化炭素排出減に貢献できる意味は大きいと中嶋氏は話した。

第三者設置型のサービス(出典:中嶋崇史氏によるセミナー資料より)

 

 

省エネ・再エネ導入の最新事例

企業を取り巻く昨今のトレンドとしては、ESG投資の盛り上がりをはじめ、企業による社会的な対応も求められてきている。

「経営姿勢として電気使用量を削減することは中長期的に効いてくるはず。今対応しておかないと将来競争力を失う可能性もある」と中嶋氏は主張する。

では、具体的には何をすればいいのだろうか。まず中嶋氏は、「省エネお助け隊」として手掛けた設備投資による電気使用量削減の事例をいくつか挙げた。

LED照明への切り替えは、投資費用の回収が比較的早いため、補助金がなくても元を取りやすい投資の最たるものだという。

事例1:倉庫におけるLED照明の導入

中嶋氏は、経産省による補助事業「省エネお助け隊」として各事業所に足を運び、水銀ランプだった倉庫の高所照明をLED高天井用照明器具に変更するまでをサポート。

まず照明の場所・数・稼働時間などを洗い出すところから行った。この倉庫の繁忙期ともなると倉庫内には商品が積みあがるため、照明交換のための足場を組み立てる作業もしっかりスケジュール化した上で6日間をかけて交換作業を実施。

結果的に消費電力が1/31/6になったという。ただし中小企業では人材や情報の不足もあり、設備投資に手が回らない場合も多い。だからこそ「省エネお助け隊」のような、外部専門家のサポートの利用も検討するべきだとした。

LED更新計画の立案例(出典:中嶋崇史氏によるセミナー資料より)

 

事例2:福祉施設における再生可能エネルギーの導入

まずは自家消費を目的に太陽光発電を導入。電力需要が常に発電量より大きいため余剰は発生せず、年間70万円以上を削減した。さらに、空調や給湯に対して太陽熱温水器で作った熱を利用したり、井戸水の地中熱を利用したりするなどして更なる再生可能エネルギーの導入にも繋げている。

福祉施設による自家消費の導入事例(出典:中嶋崇史氏によるセミナー資料より)

熱需要に対する再エネ導入(出典:中嶋崇史氏によるセミナー資料より)

 

事例3:スポーツクラブにおける省エネルギー対策

電気と熱を大量に消費するスポーツクラブでは、都市ガスエリア限定ではあるがコージェネレーションシステムが有効だ。敷地内に設置した小型ガスエンジンで発電し、照明などの電力としても使用。さらにエンジンから発生する廃熱を給湯に利用することで、ガス使用量も削減できた。注目したいのは第三者設置PPAを利用していることで、小型ガスエンジン自体は電力会社が設置・所有。スポーツクラブ側からすると設備投資費用が不要で、ランニングコストが減らせるというメリットは大きい。

コージェネレーションシステム設備の導入(出典:中嶋崇史氏によるセミナー資料より)

 

まず取り掛かるべきは現状把握

省エネ・再エネ導入の検討の段階で必要になるのは「自社のメインエネルギーに関する情報を洗い出すこと」だという。具体的にはまず、年間の電気使用量・来客数・稼働時間といった基礎データを整理する。

そしてさらにエネルギー効率を示すエネルギー原単位を算出するのもポイントとなるとした。各店舗の面積が違う場合などは、電気使用量を売上高に対する割合で比較するなど、生産量・延べ床面積・利用者数といった事業活動に関係性が密接な項目を元に換算することで、優先すべき店舗・施設が分かるため、取り組みの効率も上がるからだ。

省エネ・再エネ化は、これからの時代に企業価値を上げる秘訣。より低コストでの導入策も準備されているので、多くの中小企業の導入を期待したい。

 

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