中小企業やベンチャーが出展する「新価値創造展2019」にて、SDGsをテーマにしたパネルディスカッションが開催されました。
同セッションでは、「SDGsをいかに企業経営に生かすか?」をテーマに、実践している中小企業の経営者たちが登壇。ビジネスと社会貢献の両立について議論が交わされました。
「SDGsは単なる慈善事業ではなく事業戦略そのものです」と、この日のモデレーターを務めた横田浩一氏(株式会社横田アソシエイツ 代表取締役)は冒頭のスピーチで語ります。
横田アソシエイツの横田浩一氏(代表取締役)
時価総額が高い大企業を中心に、ESGやSDGsに関する取り組みの説明責任が投資家からますます求められているほか、社会貢献を軸にブランディングや販売増につなげる企業も出てきているといいます。
逆にいうとSDGsの取り組みが遅れることで資金調達やビジネスに支障が出る恐れがあるという意味では、「SDGsは企業にとってリスクとチャンスの両面がある」と指摘します。
中小企業にとってのチャンスとしては、人材採用への影響を挙げました。仕事での社会貢献を望む若い層が増えていることが背景にあるといいます。
「人材採用に苦戦していた中小企業でも、社会貢献を打ち出すことで優秀な人材を取ることができるかもしれない。これはものすごく大きいことです」(横田氏)。
一例として、石川県で自動車のリサイクル業などを手掛ける会宝産業株式会社の例に触れています。
従業員数80人ほどの同社は、いち早く自動車リサイクル業の海外展開も進めてきました。アジアや南米などで自動車リサイクル事業を展開することで、現地の環境保全や雇用の創出に貢献したことが評価され、2018年には第2回SDGsアワードを受賞しています。
そんな同社にBOP(ベース・オブ・ピラミッド)ビジネスを志す優秀な若者が入社。横田氏が彼に入社の動機をたずねた際、こんな言葉が返ってきたといいます。
「パキスタンでBOPビジネスをやりたくて色々と企業を探したが、日本企業で一番活躍していたのが会宝産業でした。解体された車を現地で組み立てて売り、また修理してという循環の中でものすごく雇用が生まれています」。
このように企業規模にかかわらずSDGsに関連した取り組みの重要性が増す中で、中小企業はどのように取り組むべきか?実践している以下の中小企業経営者たちも交えてパネルディスカッションが行われました。
バイオリファイナリーと呼ばれる技術をコアに持つGreen Earth Institute(GEI)は、化学品の原料を石油原料からバイオマス原料に変えることをミッションとしています。CO2を吸収する植物を原料とすることでカーボンニュートラルになり環境への悪影響を抑えられるほか、人間が食用にしない植物を原料にする非可食性バイオマスによって食糧不足への対策にもなるといいます。
GEIの伊原智人氏(代表取締役CEO)
ナカダイは、従来から廃棄物処理業を手掛けてきましたが、2007年からは廃棄物そのものを減らす提案をするCSR支援事業も開始。廃棄物が増えるほど売り上げが増えるというモデルからの脱却が狙いだったといいます。「SDGsが出てきた時も当然だと感じました。社会に対して良いことをすることで利益があがる仕組みは当たり前だと思います」と中台氏は話します。
ナカダイの中台澄之氏(代表取締役)
平和酒造は、和歌山県を拠点とする人気の日本酒メーカー。伝統産業としての日本酒業界や地域の自然を重視する姿勢が共感を集め、若い入社希望者が殺到する人気ぶりです。日本全国の酒蔵の中で、唯一大卒新卒者だけで酒造りをしている酒蔵で、特に東京生まれ東京育ちの女性の割合が多いといいます。47年連続で縮小しているという国内日本酒市場の中で、独自の存在感を築いています。
平和酒造の山本典正氏(代表取締役社長)
横田氏:SDGsの流れは後戻りしないだろうという伊原さんのご発言がありましたが、肌感覚としてどうとらえていらっしゃるか、もう少し詳しく教えてください。
伊原氏(GEI):自社の立場も入った見方ですが、ここ数年でヨーロッパを中心にバイオエコノミーへの流れが本格化しています。社会的価値を実現しようというこの大きな流れは戻らないであろうし、戻してはいけないと考えています。一方で現実的にはコストもかかるのでイノベーションも必要です。また社会的規制をどうするかも課題だと思います。
横田氏:SDGsは追い風ですが、ナカダイさんは現場として変化を感じますか?
中台氏(ナカダイ):SDGsとリサイクルの分野では、2017年末~2018年に中国がプラスチックや金属の輸入を全面的にストップしたことが大いに話題になりました。世界の廃棄物がリサイクルされる場所のほとんどが中国だったためです。その中国がほぼ全て輸入をストップしたので、廃棄物の持っていき場がなくなりました。つまり我々にとってSDGsは理屈ではなく、現実的にやらざるを得ない状況に引きずり込まれたという気がします。日本でも、なんとかして自国内で選別・解体・リサイクル・焼却・埋め立てを完結しないといけなくなりました。
横田氏:今後どうすべきでしょうか?
中台氏:まずごみの量を減らすべきですが、徐々に減らしましょうというレベルでは全く追いつかないくらい喫緊の課題になっています。我々がお取引している会社さんにいつも言うのですが、本当に自由に物が捨てられる時代が終わる可能性があります。物が捨てられなかったら消費者はモノを買わないでしょう。そこで企業は廃棄物の回収まで含めた商品設計をにらみ、廃棄物業者と組もうとしているというのが現状です。
横田氏:山本さんにお聞きしたいと思います。人材と組織をテーマにしたプレゼンでしたが、もう少し詳しく教えてください。
山本氏(平和酒造):弊社は全国で唯一大卒新卒者だけで酒造りをしている酒蔵ですが、1人か2人の採用人数に対して全国から1000人ほどの応募があります。これは普段から我々がSNSやイベントで若い人向けに情報発信していることが大きいと思います。今の若い方はどのように生きていきたいか、どんな人生を送りたいかという課題感をかなり明確に持っていいらっしゃる。その中で弊社の志の部分、つまり日本酒を良くしていきたい、地方を活性化したいというメッセージに共感して飛び込んできてくれています。ただ初期は苦労もありました。日本酒が大好きで入ったにもかかわらず、大嫌いになってやめてくという姿もありました。昔気質の職人たちが仕事を教えてくれないという状況があったので、組織改革を伴いながら改善していきました。いかに自己実現してもらえるかを企業として大事にしています。
横田氏:私も平和酒造さんに一度お伺いして働いている方ともお話したが、本当に若い人が多く女性も多いです。サステナビリティと人材育成はかなり近いところにあるのではと思いました。中台さんは産廃処理業とは別に、モノファクトリーというコンサル企業をやられています。そこに優秀な女性も務めていらっしゃいますね。
中台氏:僕らは廃棄物の種類が全ジャンルあるので、新しい使い方を考える時に、性別や学歴などは関係ありません。むしろおじさんが考えるより若い人のほうが面白い企画が出ます。うちのような70人くらいの中小企業の良さだと思いますが、入ってくる人材のポテンシャルに合わせて少しずつ仕事の幅を広げられることが魅力です。
横田氏:伊原さんのGEIは研究開発業で研究者の方が多いですが、そういった人たちのモチベートやマネジメントはどうされていますか?
伊原氏:そうですね、うちも30人ちょっとの企業で、そのうち研究開発職が20人近くで、博士や修士を持っている人間が半分以上です。彼らと話しをしていると、社会的な課題の解決に惹かれていると感じます。それがあるから入社したと明示的に言われる。逆にそこからブレそうになると、それでは私がいる会社ではありませんと言われてしまいます。
横田氏:そう考えるとなんのためにこの会社があり、何のために自分が働いているかというミッションやビジョンは浸透していると考えてよろしいですか?
伊原氏:そうですね、それを共有しないと中々良い人は残らないと感じています。
司会の横田氏はパネルディスカッションの最後にて、中小企業にとってもSDGsはチャンスだと改めて強調しました。
「最近は大企業の役員研修でSDGsについて話すことが多いです。SDGsの取り組みをコストであったり面倒だととらえてらっしゃる方の意識を変えたいというオーダーです。大企業にとってSDGsの必要性が高まりながらも、急に行動を変えるのは難しい。その点でいうと中小企業であれば、経営者が先導すればスピードが速い。利益につなげるチャンスであるだけでなく、何よりも優秀な人材を取れるかもしれない、もしくは優秀な人材のモチベートを上げることができるかもしれない。これは中小企業にとってはものすごく重要なことです」。