ファッション手袋の企画や製造、販売を手がける株式会社フクシン(香川県東かがわ市)は、本社施設で自家消費型の太陽光発電を始める。
2021年1月に着工し、3〜4月には稼働する見通しだ。電力使用量に占める自家消費率は25%ほどを見込んでいる。ちなみに導入費用の一部はクラウドファンディングで集めた。
また前年の12月からは、再生可能エネルギー100%の電力プランに切り替えている。
同社は2020年3月、長く大切に使ってもらえることをコンセプトとして、素材や製法などにこだわったオリジナルブランド「ecuvo,」をリリースしている。
手袋を片方だけなくしてしまった、といった場合でも捨てずに使い続けられるよう、片手片足だけの販売も受け付けるほか、永久修理の保証もつけるなどして、エシカル消費への関心が高い消費者を中心に話題を集めた。
「環境に優しいはずの手袋を作っているのに、生産段階で使う電力がCO2を排出しているのはよろしくない」という社内からの声が、再エネ導入のきっかけという。
「ecuvo,」ブランドの手袋(出典:商品サイトより)
ここ数年で環境を考慮した取り組みを強める姿勢について、フクシンの福﨑二郎氏(代表取締役社長)はこう話す。
「最終的には売上が重要です。いくらコンセプトが良くても消費者が受け入れてくれなければ続きません。末長く環境商品を出していくための取り組みは始まったばかりだと思っています」。
一連の取り組みについて、福﨑氏に話を聞いた。
フクシンの福﨑社長
「”ecuvo,”を作るための電気が化石燃料では、売れれば売れるほどCO2を出すことになってしまう」。
週に1回開かれる新商品の企画会議にて、こうした懸念が社員から上がってきた。2020年3月にサステナブルブランド「ecuvo,」をリリースした前後の頃だという。
電力の再エネ化に向けて、最初に検討したのは自家消費型の太陽光発電だ。
「本社はそれなりに大きな建物なので、屋根の全面につければ効果があるかもしれないと考えました」(福﨑氏)。
検討の結果、当時契約中の新電力、藤田商店(香川県)に依頼することにした。
また地元自治体による補助金の活用も考えたが、コスト増につながる蓄電池の併用が条件に入るなどしていたため断念した。
自家消費設備設置に向けた資金集めの一環として、福﨑氏が実施したのがクラウドファンディングだ。
クラウドファンディングとは、ネット上にて不特定多数の人々から資金を調達する手段。フクシンのような起案者が実現したいアイデアを投稿する。それを応援したいと感じた支援者が少額ずつ寄付する。寄付額が一定水準を越えれば、集まった資金を受け取ることができる。
実は福﨑氏は、クラウドファンディングの実施に関するアドバイザーの資格を保有しているのだ。
寄付が集まるまでの筋道や、スケジュール、設定金額などを福﨑氏自身が決めたという。
「ただ支援者への返礼品のコストや手間などを考えると、利益はそこまで出ないだろうと思っていました。あくまで広告やPRの一環です」(福﨑氏)。
反響は予想を上回る水準だった。
目標額の100万円に対して、約120万円の寄付が集まったのだ。
フクシンのページ(出展:クラウドファンディングサイトより)
「再エネ電力で”ecuvo,”を作るというコンセプトが、どれくらいの人に受け入れられるのか、というバロメーターとして参考になったように思います」と福﨑氏は振り返る。
自家消費による電気代削減効果を考慮すると、設置費用は6~7年ほどで回収できる見込みだという。
設置工事は1月から始めた。4月の供給開始を目指して進行中だ。
設置工事の様子(出典:フクシンWebサイトより)
社屋屋上の太陽光パネル
自家消費を実施できる目処はついたが、これだけで電力使用を全て再エネ化できるわけではない。
「自家消費率は25%。残りの75%をどう再エネ化するか?という話になりました」(福﨑氏)。
検討を進めるうちに、いくつかの新電力が再エネ電力プランを提供していることを知った。仮に適切な再エネ電力プランを契約すれば、一気に再エネ100%を達成できる。
そのため自家消費の設置完了に先駆けて、再エネ電力プランを契約することにした。
さらに検討する中で、当時契約中の新電力、藤田商店に再エネ電力プランの提供も持ちかけてみた。
当時藤田商店は、まだ化石燃料の電力プランが中心だったが、再エネ電力プラン(非化石証書付き)の提供に意欲を示し実現してくれたという。
「僕らとしては、同じ香川県の企業と組むことで、地元企業(藤田商店)のサービス構築にも貢献できれば嬉しいです」(福﨑氏)。
こうして自家消費の設置に先んじて、2020年12月に再エネ電力プランへの切り替えが完了した。
しかし化石燃料の電力プランよりも、月数万円ほど値上がりしてしまう。
「ただ同時に自家消費による電気代削減も実施することで、切り替えによる値上がり分も飲み込みやすくなりました。また”ecuvo,”のブランディングにもなると判断しました」(福﨑氏)。
福﨑氏はさらにこう続ける。
「ただ一番大きい理由は、サステナブルな商品や事業です。会社がそれを目指しているのだから、よほど大きな負担にならないのであれば踏み込むべきだと思いました」。
社員も含めてサステナブル施策に積極的に取り組むフクシンだが、その姿勢について福﨑氏はこう話す。
「手袋を売る企業として、気候変動による温暖化は人ごとではありません。僕らは手袋屋さんですし、これからも手袋屋でありたいと思っています」。
防寒具だけに、最高気温が10度を下回る日が2,3日ほど続くと、販売数が増え始める傾向があるという。
「こうした取り組みで爆発的に販売につながるわけではありませんが、地道にやっていきたい。50年後、100年後の子供たちを笑顔にという考えでやっています」と福﨑氏は話す。
ただ企業としてベースとなる売上を重視することも忘れない。売上高は、その企業や商品への支持を示すバロメーターだからという考えだ。
末長く環境商品を出していくための取り組みは始まったばかり。今後も環境と経営のバランスを追求していくという。
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